お客の怒りを買う二者択一思考

ひとつの例を紹介しましょう。1990年代、多くの消費者向け電子機器メーカーは、デジタルビデオ映像を記録する光ディスクの発売競争を繰り広げていました。そのとき、メーカー各社の念頭にあったのは、昔のVTR方式のVHSとベータマックスを巡る過去の争いでした。業界はどちらの規格を採用するか10年間も迷い(典型的な二者択一思考です)、消費者の怒りを買いました。業界のリーダーたちは、あのような綱引きを繰り返してはならないと一致結束し、デジタルビデオの標準フォーマットを一本化すべく、テクニカル・ワーキング・グループ(TWIG)という相互補完的なチームを立ち上げたのです。IBMのアラン・ベルが議長を務めたTWIGは、多くのコンセプトを検討しました。

東芝、ソニー、フィリップス、アップル、IBMなどの企業から参加していた非常に有能なエンジニアたちは、自分のプロトタイプを提案し、互いに学びました。TWIGが支持したのは、10ギガバイトという大容量の東芝のアイデア「スーパー・デンシティ(SD)」ディスクでしたが、ソニーとフィリップスの「EFモデュレーション」にも関心を持っていました。この技術なら、埃や引っ掻き傷、指紋などが原因で起こるスキップやスティッキングを大幅に減らせるからでした。

そして96年、この企業連合体が発売した完成品が「デジタル多用途ディスク」、いわゆるDVDです。DVDは多くのプロトタイプの特徴を組み合わせたもので、各社が単独で開発していたなら、このような解決策は生まれなかったでしょう。DVDは瞬く間に普及しました。2007年のピーク時には17億枚のDVDが出荷され、240億ドルの売上高を記録したのです。

勇気を奮って思い切った決断

上司に意見を言ったり、会議の中で、検討されているアイデアに対しまったく異なる意見を発信したりするのは、特に日本の企業では、大変勇気のいることであり、思い切った決断が必要になることがあるかもしれません。

しかし、まずはあなたから、「二者択一」の考え方から抜けだし、「第3の案」を探す考え方を身につけましょう。そして、あなたの意見が通らないことを気にするのではなく、あなたから周りの人たちに、「一緒に『第3の案』を探してみませんか?」と提案してみましょう。その結果、当初のあなたの意見より、もっと優れたアイデアが生まれ、大きな成果が達成されるかもしれないのですから。

(翻訳=猪口 真 編集協力=ブレック・イングランド 撮影=若杉憲司)