岸田文雄首相が表明した「異次元の少子化対策」は功を奏するのか。昭和女子大学特命教授の八代尚宏さんは「児童手当の拡大など『異次元』の名称とはほど遠い内容で、政府として何か努力をしているというジェスチャーを示す安倍政権以来の常套手段と言わざるをえない。対症療法ではなく古い社会制度・慣行をリストラすべきだ」という――。

およそ「異次元」の名称とはほど遠い少子化対策

岸田文雄首相は年頭記者会見で「異次元の少子化対策」を表明した。これは1970年代前半の200万人台から2022年の80万人割れと、減り続ける子どもの数への危機感によるものだろう。このため少子化対策を検討する新たな会議を1月中に設立し、そこで作成された具体案を4月に設置されるこども家庭庁で実現を図るという。

もっとも新会議を次々と作り、関連予算を付けることで、政府として何か努力をしているというジェスチャーを示すことは、安倍政権以来の常套手段であった。その具体的な政策として報じられているものは、児童手当の拡大、学童保育・産後ケアの充実、育休期間の拡充など、各々有用ではあるが、およそ「異次元」の名称とはほど遠い内容である。

子ども数の減少は、単に子育ての費用の大きさだけによるものでなく、日本社会の歪みの一つの表れであり、いわば病気の際に出る熱のようなものと考えるべきだ。単に熱を冷ます対症療法でなく、病気自体の治療を行うという、構造改革こそが「異次元の少子化対策」の名に相応しい。

少子化の構造的な病因としては、女性が出産後は働かないことを暗黙の前提とした日本の雇用慣行や、それに対応した税・社会保険制度、および日本型福祉社会に基づく保育所などが挙げられる。いずれも長年にわたって改善が求められているが、さまざまな政治的な抵抗で実現されていない。