視点を切り替える3つの要素とは

その理由はいくらでもありそうだ。ベルトコンベヤーに乗ったかのように、決まりきった観光ルートを、大勢の人と一緒に回るというのは、時流に合っているようには見えない。その意味で、衰退の流れを反転させることは難しいが、〈はとバス〉は、この不利な流れを反転させた。

まず、彼らは、自分たちの事業の反転の芽を探すべく手元の資料を見直すことから始めた。事業を見直していると不思議なことに気づいた。一つは、〈はとバス〉の予約は直前になって伸びることだった。〈はとバス〉に乗りたくて東京に来ているのではなく、直前にたとえば、天気の様子を見て、あるいは時間が空いたからという理由で、来られるお客様が〈はとバス〉のお客様だということが理解できた。

もう一つ気がついた点は、首都圏在住の利用者が少なくないことであった。首都圏在住の利用者は、50%近い構成比になっていた。とくに、観劇などを含んだ企画ものといわれる観光コースになると圧倒的に首都圏のお客様の割合が大きくなる。

こうして、これまで漠然と考えていた「都内観光客」像があったが、それとは異なるお客様がいて、定番コースとは違ったコースニーズが大きいことに気がついた。それに向けての対応に取り組んだ。

方針は決まり、これまでの定期観光の考え方を変えた。従来であれば、地方から東京を訪れるお客様相手に、名所旧跡を効率よく回ることや、バス車両の運用効率を図ることが事業の主たる関心だった。それに対して、お客様ニーズにきめ細かく応えることを考えた。

第一に、東京をより深く知りたいというお客様に対しては、非日常的な観光サービスを提供した。サプライズ&プレミアム感、高品質・優雅・都会的センスのある商品が開発された。朝食を築地、昼食を浅草、そして夕食を柴又でとる「江戸味覚食い倒れツアー」。六本木や新宿の夜を楽しむ「シンデレラナイト」。豪華ホテルでの昼食、映画会社とのコラボ、江戸城見学、講談師が案内する「激動の戦後“白洲次郎”探訪記」「年末恒例 東京フィル第九の調べ」といった1回限りのイベントツアーの企画も生まれた。心惹かれるテーマではないか。

定期・定番コースも、お客様の身になってきめの細かい配慮を組み入れた。東京滞在における「時間の合間を縫っての短時間の観光」に対応する観光スケジュールを考えた。ホテルでの朝食を終えたお客様をうまくピックアップして、終わりは17時をこえない。また、新幹線や航空機の接続や都内の宿泊地の利便を考えたスケジュールを立てた。ホテルでの宣伝ももちろん、怠りなし。

こうして、多様なお客様に「行き届いたサービスの提供を」という、お客様目線での対応が進んだ。99年から05年にかけて20%低下した売上高は、見事V字回復を達成した。