ゆるいなごみの時間も、
また人気の秘密かもしれない

作法にしたがって台の縁をこすらないで飛び越えるようにして降りる。足がしびれて動けないのではないかと心配だったが、幸いそんなこともなかった。途中で体勢を整え、警策を入れてもらったおかげだろう。

(左)壁に向きあい、坐蒲の上で坐禅を組む。
(右)坐禅が終わると、作務(雑事)になる。藤原氏の横では、他の参禅者が黙々と作務をこなしていた。同日は、書類を折って封筒に入れる作業だった。

体重でへこんだ坐蒲を直し、堂内を一周するようにして廊下へ出た。ホッと力が抜けて、ただ立って歩けるということだけで嬉しくなった。やっぱりそれだけ緊張していたのだろう。永平寺につづいて坐禅は2度目とはいっても、まだまだビギナーであることを思い知った。

本日の参禅者は30名ばかりで、男性が8割というところだ。年齢は30~40代が一番多い。なかには茶髪の若い女性や、外国人もいる。

その後、参禅者は作務(さむ)と称するお寺の手伝いをやる。この日は冊子の仕分け、折り込みという簡単なもので10分ほどで終了した。卓には菓子とお茶が出されて、傍らではしばしの歓談が始まった。

「どこからいらしたんですか?」「姿勢がいいのでびっくりしました。もう何回も参加されたんでしょ」「眠くなりませんでした?」

うち解けた雰囲気で話が弾んでいる。彼らは20~30代だ。

この坐禅会は45年間続いているが、40代以下の若い世代が増えてきたのが、最近の顕著な傾向だという。若い世代にたいしてストレスの強い社会になったことが原因かとも思うが、歓談する彼らを眺めていると、本格的な坐禅修行とは違った、このゆるいなごみの時間もまた人気の秘密なのかもしれないと思い直した。ここ数年、「和」というのがトレンドのキーワードになっているが、それもどこかで関係しているのか。そういえば神社仏閣などもパワースポットと称してブームだしなあ、などと考えながら、私は着替えに向かった。