天才はいるが天才的な猛獣使いはいない

翻って、富士通はどうか。実は昔から天才を生む会社だ。国産コンピュータ1号を開発した故・池田敏雄元専務。90年代にPDPを世界で初めて実用開発した篠田傳・元フェロー(篠田プラズマ会長兼社長)。さらには、世界最速のスーパーコンピュータ「京」開発陣。

100メートルを世界一のスピードで駆け抜ける天才ランナーを、富士通は何人も輩出してきたのだ。ただし、天才的な猛獣使いはいない。富士通の風土のようなものが、天才ランナーを疾走させていたのだろう。

豊田氏は言う。「富士通は日本の会社なので、アメリカ型の人事システムにすぐには変えられません。かといって、グローバルに勝っていかなければならないわけで、試行錯誤しながら(人事システムの)第三の道をつくっていきたい。アメリカ企業では、職務の何をやるかが細かく決まっている。これが富士通など日本の会社では社員がやるべきことは決まっている半面、やってはいけないことはあまり決まっていない。この結果、ナレッジが職場のあちこちにたまっていて、それが強さになっているように思えます」。

富士通では、入社5年までに退職するのは3%程度。営業など一つの職種に配属されると、他の職種にはほとんど動かないのも特徴。また、留学生ら外国籍の人材を毎年30~50人採用している。約2万5000人の社員のうち、外国人は270人いて1%以上を占める。

富士通は新たな成長軌道を描くために、多様な方式で採用した人材を生かしていかなければならない。天才ランナーと10種競技の選手とを「日本企業は一緒に育てる傾向だが、それぞれの特性に応じて育成したほうがいいだろう」(酒巻氏)という意見もある。