海外進出の足かせ。ガラパゴズ化する日本の人事

人事システムの基本となるのは、職に報酬がつく職務給だ。例えばだが、東京支社長ならレベル5の職に相当して、標準的な報酬は3万ドル。このうち現金で受ける基本給は2割で、その他は成果部分のボーナスや株で受け取る。報酬の相場が決まっている労働市場があり、転職はしやすい。

「クビになってもです。富士通など日本企業では、人に報酬がつく職能給が基本。そのうえで成果主義を展開している。日本人はグローバルでは働きにくい。日本企業の人事がガラパゴス化していて日本人の力量を測れないから」と前出の外資企業元幹部。

確かに、システムの違いはある。しかし、現実には世界の巨人と伍して渡り合った日本人ビジネスマンはそれなりにいる。

キヤノン電子の酒巻久社長(キヤノン元常務)は、「自分は複写機からファクス、プリンターと何でも開発してきた技術者」と話す。陸上競技に例えれば10種競技の選手であり、実務的な技術者に当たる。そんな酒巻氏は80年代にキヤノンとアップルのプリンター協業を通し故・スティーブ・ジョブズ氏と知り合う。85年にアップルを追われたジョブズ氏は、NeXTコンピューター社を立ち上げるが、やがて酒巻氏はキヤノン取締役の立場からNeXTの経営にも参画した。

「おまえの顔など二度と見たくない!」。若かったジョブズ氏と酒巻氏は、罵り合いながらしばらく口をきかなくなることもあったそうだ。酒巻氏は経営トップのジョブズ氏との面談の約束を、わざとすっぽかしてゴルフに出掛ける。ジョブズ氏をあえて激怒させて、自分の意思を表明することもした。それでも、深い部分では互いを認め合っていて、絶縁することは決してなかった。正面から喧嘩をし、向き合って意見をぶつけ合う。2人は最後まで、メールでやり取りもしていた。

酒巻氏はジョブズ氏について「製品をデザインする力が凄い。技術者ならだれもが持つ合理的な発想を捨てられるから。技術、デザイン、さらにはプロモーションまで何でもできて、全体をまとめられた。ただし、設計などの技術レベルは普通。天才エンジニアではなく、スティーブは天才的なインテグレーター(統合者)」と話す。猛獣に見られるジョブズ氏だが、本当は猛獣使いだったのかもしれない。