同じ中国でも華南地域、また、香港やシンガポールの中華人は、金銭面へのこだわりが強くなる。少しでも給料がよいと、それまでのキャリアをあっさり捨てて転職することも厭わない。

反対にタイ、インドネシアなど東南アジア諸国では、実力主義の傾向は少なく、成果主義賃金で大きく差をつけたりすると、「かわいそうだから私の分を分けてあげてください」と言われたりする。職場の雰囲気や企業風土を大切にする点は日本人と共通するが、日本人より自らのキャリアや、企業の社会的ステータスを大切にする。

インドでは経営理念や理論が企業選びの基準となる。「各人の給料がいかにして決定されるか」といった仕組みが明快で論理的でないと働く人々は我慢できない。また、企業の掲げるビジョンにも重きを置き、その企業がインドという国や社会にどのような貢献をしているのかを気にかける。

国によってこれほど企業に求めるものが違うにもかかわらず、どの国でもおしなべて日本企業には人気がない。

その最大の理由は、日本企業では何もかもが「曖昧」であることだ。仕事の責任範囲、昇格基準、給与体系、評価基準など人事諸制度が明確でないばかりか、企業の経営理念、海外拠点の経営方針もはっきりしない。

金銭を重視する人にとって「どれだけ働けば、いくらもらえるのか」がわからず、キャリアを重視する人にとって「いつ頃どのような仕事を任されるのか」がわからない。ビジョンを重視する人にとっても「どんな理念を持った企業なのか」がわからない。そのため誰からも魅力を感じてもらえない。

日本企業の場合、そもそも本社ですら、給与の算定基準や経営ビジョンがはっきりしない企業もある。さらに本社で明確な方針を出していても、現地に伝わっていない。「海外子会社の現地化を進め、○○年までにこのポジションに現地人を昇格させる」と本社の会議で決定しているのに、肝心の現地のマネジャークラスには伝えられず、昇進させようと思っていた当人が見切りをつけて転出したりする。