2012年6月8日(金)

岩手 ロレオール伊藤シェフの炊き出し

dancyu 2011年8月号

文・山本謙治 撮影・市来朋久

東日本大震災の直後から被災地を回り、炊き出しを続ける料理人がいる。岩手県奥州市のフレンチレストラン「ロレオール」のオーナーシェフ・伊藤勝康さんだ。

今回の炊き出し隊は、伊藤シェフ率いるロレオール チームと、東京から参加したcampチームの編成だ。

毎週月曜は店を閉め、調理道具と食材を車一杯に詰め込み、避難所を目指して出かけていく。

「ハンバーグが食べたいんだよ」

「煮物をねぇ、いただきたいの」

避難所の人たちの声に、可能な限り応えるシェフの炊き出しは毎回盛況だ。

そんな伊藤さんの取り組みを聞きつけて、イタリアンのシェフやパティシエなど、さまざまなジャンルの料理人が関東や関西から集まってくる。かねてから親交のある山形のイタリアン「アル・ケッチァーノ」の奥田政行シェフもその一人。震災の1週間後には、鍋と包丁だけを持ち、「ロレオール」を訪ねてきたという。

実は伊藤シェフ、この地に店を構えるまではケータリングを主戦場とする出張料理人だった。調理用具や食材の制約が多く、現地で何が起こるかわからない状況での調理は手慣れたものだ。

炊き出しのメインは“牛肉と夏野菜炒めカレー”。 新鮮な地元食材が避難所の皆さんに大好評だった。

体一つ、フライパン一つあれば、被災地に笑顔を取り戻せるのが料理人。だが実際には炊き出しをする避難所との連絡や調整、機材の手配など煩雑な仕事もある。それらをこなしてくれる伊藤シェフがいるからこそ、他の料理人たちも精一杯、炊き出しに力を入れられるのだ。

今回、遠足カレーの会場に「ロレオール」の店の庭を借りた縁もあり、われわれもぜひ炊き出しにご一緒したいと伊藤さんに申し出た。

「野菜を食べるカレーcamp」の得意技である炒めカレーをひっさげ、目指すは宮城の気仙沼。大きなお寺の避難所は夕日を背景にハワイアンが流れ、なんだかゆったりした空間だった。

「ここは親父さんたちが火を囲んで、女性陣と一緒に飯や汁を羽釜で炊いてるんですよ。頼もしい親父がいるなぁ。コミュニティーが生きてる証拠です」

と、伊藤さんの言葉に感心しながら一同、てきぱきと調理用具を並べ、刻んできた野菜と肉を炒め始める。こうして用意した食数130人分。アスパラと奥州

牛たっぷりのカレーに宮崎県西都市のとうもろこし、サラダ、イサダのスープ、デザートに甘酒ミルクが今宵の献立だ。

あれ? campチームの下田画伯がいないぞと思ったら、境内で子供たちの顔をものすごい勢いで描いていた。慌ただしい炊き出しの現場で、皆が自分のなすべき仕事をこなしている。「夕ご飯ですよぉ!」

炊き出し会場の片隅で、大変な盛り上がりとなっていた下田画伯による似顔絵スケッチ。この後、子供たちが「お礼に」と、自分たちで考えた劇を見せてくれた。

うわぁっ、と並ぶ皆さんの顔が輝く。家族と一緒に食べる人、大きな石の上に並んで腰掛けて食べる年配のご夫婦。夕日を見ながら黙々と食べる高校生。「甘酒、もう一杯飲んでいいかな」と年配の男性が2回、お代わりにいらっしゃる。日がとっぷり暮れる頃に、なんだか名残惜しさを感じながら撤収。すっかり子供たちのアイドルになった下田画伯は最後まで一人一人の顔を描いていた。

「ロレオール」はフレンチでは珍しい地産地消のレストランだ。

「岩手県には、あまり知られていないおいしい食材がいっぱいあるんですよ」

日本では岩手でしか生産されていないほろほろ鳥や、稀少なブラウンスイス、短角牛などを南部鉄器でグリルした一皿は同店のスペシャリテだ。

「被災地が元気にならないと、いい食材も手に入らないからね」と笑いながら、伊藤シェフは炊き出しに向かう。岩手の食材と、被災地を支える心意気の双方を味わえる、それが岩手とともにあるレストラン「ロレオール」なのだ。

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山本 謙治