英字新聞の求人欄

入社半年後、カミさんが日本にやってきた。その半年後の夏のことだった。

当時は火力発電のプラントでもGEのお墨付きが必要な時代だった。GEから火力部門のエンジニアが日本に派遣されて、我々のような日本人エンジニアには信じられないような立派な外国人住宅で暮らしていた。

そんなGEのエンジニアの奥さんの1人とウチのカミさんが友達になった。

彼らシャーマン一家は夫婦に娘1人の3人家族。海を見下ろす丘の上の“豪邸”に住んでいて、サマーバケーションは家族揃ってアメリカに戻るという。そこで、一夏の間、留守宅の世話を兼ねて我々夫婦が住むことになった。これも家内が直接交渉して手に入れた産物だった。

これが運命を大きく変えることになる。

シャーマン一家は『ジャパンタイムズ』を購読していて、夏の間も毎日届いた。社宅では新聞を取っていなかったし、英語に飢えていたカミさんはむさぼるように読んでいた。

ある日、私も何気なく新聞を手に取って読んでいたら、「Wanted」という求人コラムの「ケミカルエンジニア募集」の文字に目が留まった。

「これって俺のことだよな」

大学で応用化学を修めた自分を呼んでいるような気になって、募集広告に記載された番号に電話をした。

連絡先はいわゆるヘッドハンターだった。一度、履歴書持参で会って話をすることになり、仕事で都内に出たついでに連絡を取って待ち合わせた。

履歴書に目を通したヘッドハンター氏は「この履歴書なら、最近日本に進出してきた外資系の会社がいい。給料が結構いいみたいだから、先にそこに行こう」と言い出した。どんな会社なのかと聞いても、「私もよくわからない」という。ケミカルエンジニアの話はすっかり後回しで、促されるままタクシーに乗り込んだ。

「あなた新聞は何を読んでいるの?」

「新聞は取っていません」

「朝日と言いなさい。好きなテレビ番組は?」

「テレビは持ってないから見ません」

「じゃあNHKのニュースセンター9時ということで」

車中、面接の要領らしきレクチャーを受けているうちに、タクシーが到着したのは丸の内の馬場先門のある富士ビル。その10階にマッキンゼー&カンパニーの東京事務所が入っていた。

次回は「マッキンゼーの面接は『×』が4人」。6月11日更新予定です。

(小川 剛=インタビュー・構成)