たとえば、ニコンのカメラ。最高級の一眼レフカメラは日本製ではない。レンズもボディもメード・イン・タイランドである。“メード・イン・ジャパン”の最後の聖域とされてきた精密機械の一眼レフカメラでさえ、今や海外でつくられているのだ。

タイは離職率が低いし、今の日本の若者よりよほど忍耐力がある。もちろん労働コストも日本に比べてはるかに安い。私もタイ製ニコンの一眼レフを持っているが、実に素晴らしい出来栄え。タイのような国でここまでのレベルの製品がつくられるようになったら、もう日本での生産に戻ることはない。

このように昨今の貿易収支の数字が何を意味しているかといえば、要するに「日本企業のアメリカ化」であり、「日本のアメリカ化」なのである。日本企業の海外現地化が進み、そこでつくられた製品が日本に入ってきて貿易収支の黒字を減らし、ひいては外貨準備高にも影響を及ぼしていると考えられるのだ。

アメリカから世界に進出した米企業は戻ってきたためしがない。為替がどうなろうが、米政府がどんな政策を打とうが、アメリカには戻ってこない。

アメリカ化した日本企業がどうなるかといえば、恐らく同じことが起こるだろう。今や円が強くなってドル換算した日本の賃金は世界一だ。労働コストが世界一なのに十分な労働力を確保できず、派遣やパートが使いづらくなるように雇用関連法が改正され、正当な契約見直しを行ってもメディアから悪人扱いされる始末。企業が国内で雇用を生み出す理由は何もない。増減の調整が著しく難しくなってきたからだ。

当然、日本企業の海外流出は今後も加速する。しかし、顧客は国内に残っているから、海外で生産した製品を日本国内に逆輸入する。08年末から今年にかけての貿易収支の赤字の原因を世界的不況という特殊事情による一時的な現象と片付ける向きが強いが、私は違うと見ている。