2012年5月25日(金)

「旨味」と「雑味」の違いは何ですか?

dancyu 2011年12月号

文・大石勝太 撮影・浜村多恵

レシピでは本当に旨い料理はつくれない

煮物や鍋物などをしていると、よく「アクを取ろう」と言いますよね。なぜ、アク(「灰汁」と書く)は取らなければならないのか? アクは肉から出る肉汁などであったり、野菜から出るシュウ酸などであって、苦味や臭みなどを伴うため、これが混ざっていると料理の味が濁り、“雑味”が混ざってしまう。だからアクは取る、と料理本には書いてある。

しかし、ある和食の料理人は「料理の世界では『アクも味のうち』という言葉がありましてね、場合によっては多少の雑味があったほうがおいしく感じることもあるのですよ」と言う。アクはたまには役に立つ、ちょっといい奴でもあったのか!?悩みが深くなりましたね。

“旨味”と“雑味”の違いってナニ?

「雑味があったほうがおいしくなる、ということではありませんよ。

もちろん、いかに旨味を引き出すか、ということが一番大切。でもね、人間の味覚は複雑なんです。ただ旨味があるだけでなく、そこにほんのわずかなえぐみなどが混ざっていたほうが、味に奥行きを感じられることもあるのです。

たとえば、絵の具の赤だけを使って色を塗るときれいに見えますよね。でもそこにほんの少しだけ黒を混ぜると、赤に深みが出ます。そういうことです」

そういうことです、と言われてもまだよくわからない。試しに、肉じゃがをつくって、(1)アクを完全に取る、(2)まったく取らない、(3)半分ほど取る、の3パターンで試してみた。

(1)はすっきり旨い。(2)はちょっと味がざらついているような気がする。(3)は、(1)のような澄んだおいしさはないが、しかし味が単調ではない、複雑味があるような気がする。赤に黒を混ぜる、というのはこういうことだったのか。ただ、肉やじゃがいもの素材の味を感じるのは、やはり(1)のほう。(2)は素材より汁に旨味が感じられる。うーん、難しい……。

さて一方、レシピを眺めていると、たとえば肉を焼くときに「焼いている途中で、余分な油は拭き取っておきましょう」などという言葉がよく出てくる。「余分な」ってどういうこと? フライパンの中に余分な油とそうでない油が混在しているってこと? じっと見つめてみたが、少なくとも僕には判別できない。

わからないから洋食の料理人に聞いてみた。

「肉を焼くときは、できるだけ肉汁を外に出さないのが基本。ただ、カットした肉はどうしても断面から肉汁や血が出てしまう。これがフライパンで熱せられ、油と混ざることで雑味のもとになる。これをそのままにしておくと、肉がこの雑味の油に浸された状態になり、雑味が肉に入ってしまう。だから余分な油は拭き取ったほうがいいんです」

でも、拭き取るのは「余分な分だけ」?

「そう、フライパンの油には雑味が混ざっていますが、旨味の脂も出る。これは残したほうがいい」

どういうこと?

「簡単に言うと、肉を焼いていくと肉汁が出て油と混ざる、これは雑味になるので拭き取る。さらに焼いていくと、肉から出た脂がたまってくる。これは肉の旨味ですから、拭き取らずにそのままにして肉に戻すか、あるいは焼いたあとにフライパンに残してソースをつくる。これは肉の旨味が入ったおいしいソースになります」

なるほど、余分な油は拭き取り、おいしい脂は残して使うということか。

「料理をつくるときには、旨味と雑味の違いは常に意識したほうがいいですよ。

たとえばカレーやソースをつくるときに、玉ねぎを炒めますよね。これもじっくり炒めて玉ねぎの旨味や甘さを引き出すことが大切で、慌てて炒めると、玉ねぎの周りが焦げて旨味が中に閉じ込められたまま、焦げの雑味しか出ないですから。

よくレシピ本に『玉ねぎを茶色くなるまで炒める』なんて書いてありますが、茶色にすることが目的ではなく、玉ねぎの旨味を引き出すことが目的なんです。その意識の違いが料理の味の違いになるんです」

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大石 勝太