2012年5月28日(月)

商談で会話が途切れない「フェルミ推定式」話し方

PRESIDENT 2010年5月31日号

著者
細谷 功 ほそや・いさお
クニエ マネージングディレクター

細谷 功

1964年生まれ。東京大学工学部卒業。東芝でエンジニアとして働いた後、アーンスト&ヤング・コンサルティングに入社。専門は業務プロセス改革、組織改革など。著書に『地頭力を鍛える』などがある。2009年7月、ザカティーコンサルティングより社名変更。

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クニエ マネージングディレクター 細谷 功 構成=大塚常好 撮影=向井 渉

会話の潤滑油「桁数感覚」を磨け

数字は、取引先とスムーズに会話を交わすための潤滑油です。営業マンなら、取引先の従業員数や売り上げ、シェアなど、基本の数字を把握しておきたいところでしょう。

しかし、矛盾するような言い方ですが、そうした数字のすべてを完璧に頭にインプットしておく必要はありません。なぜなら、現在はiPhoneなどのモバイル端末を使い、商談の現場でも瞬時に調べることができる時代だからです。

むしろ重要なのは「桁数の感覚」を持つことです。数字を1の位まで正確に把握していても、使えなければ意味がありません。おおよその桁数を押さえて他の数字と比較し、「点」と「点」を組み合わせることで、取引先にとって価値のある情報となるのです。

取引先に「結局、その提案を受け入れたら、ウチはいくら儲かるの?」と聞かれ、答えに窮したことがある人も多いでしょう。いい加減なことは言えないから、社に戻ってから調べ、返答しよう――。でも、ときにこうした問いかけは、商談を終わらせる合図である場合もあります。

話を途切れさせず商談を成功へと導くためには、お客さんにおおよその数字を伝えることです。もちろん、いい加減な数字ではいけませんから、その数字が導かれる根拠をあわせて示す必要があります。

桁数感覚を鍛えるために役立つのが「フェルミ推定」です。「日本に電柱は何本あるか?」「シカゴにピアノ調律師は何人いるか?」……。フェルミ推定とは、一見つかみどころのない物理量を、様々な要素に因数分解し、知っている数字を組み合わせて概算することです。コンサルティング会社や外資系企業の入社試験で問題解決力を試すために使われ、最近では地頭力を鍛えるトレーニング法としても注目されています。

フェルミ推定の商談への応用法を、具体的なケースの中で解説しましょう。

あるIT企業でシステム営業を担当するAさん。これまでは自動車会社のディーラーが主な顧客でしたが、4月から異動となり、コンビニエンスストア・チェーンを担当することになりました。

さて、いよいよ初めての訪問。コンビニチェーンB社の本社ビルを訪れたAさんは、会議室に通され、担当者の到着を待っていました。ここで、重大な事実に気づきます。

「B社の従業員数を調べるのを忘れた」。Aさんが提案するのは、本社従業員向けの経費精算システム。B社の従業員数がわからなければ提案も漠然としたものになってしまいます。Aさんは、落ち着いて頭を働かせました。

本社の従業員数を導くのに必要なのは何か。Aさんは因数分解をしました。そこで導かれたのは4つ。「フロア数」「フロア占有率」「フロア面積」「従業員密度」です。

「フロア数」は、エレベーターに乗る際、B社が11~15階の5フロア分を使用していたのを思い出したことで解決しました。「フロア占有率」は、同じ階に他社のテナントはなかったので、エレベーターホールなどの共用部分を除いた占有率は4分の3ほどと推定します。

続いて「フロア面積」。Aさんは、B社の入居するビルをケータイのマップで確認していたのを思い出しました。1階に酒屋が入った隣のビルの5倍ほどの広さを持っていたはず。酒屋がAさんの自宅マンション(80平方メートル)と同じくらいの広さだと推定し、B社の1フロアの面積が400平方メートルという数字を導きました。

残るは「従業員密度」。Aさんは会議室に通される途中でちらりとみかけたオフィス風景を思い出し、従業員の人口密度が3平方メートルにつき1人だと見当をつけました。

そうやって抽出した4つの数字から、B社の本社には500人ほどの従業員がいることを推定します。

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