“比較的リンパ節転移が早い”ことで知られているのが「食道がん」。2008年は1万1746人が食道がんで亡くなっている。食道がんのリンパ節転移が比較的早いのは、食道の周辺にリンパ節が多く集まっているからで、そのほか、周辺臓器も多い。

だからこそ、「ものが飲み込みにくい」「声がかすれる」といった症状が出る前の早期の段階で発見すべきである。その時点であれば身体にやさしい「内視鏡治療」が可能。ただ。ここへきて進行がんであっても食道を残すことのできる“身体にメスを入れない「化学放射線療法」”が注目されている。

食道がんで進行がんといわれるのはII期、III期。それは次の状態である。

◆II期……がんが外膜の外、食道の壁の外にわずかに出ている。転移は周囲のリンパ節のみ。
 ◆III期……がんが食道の壁の外に明らかに出ている。転移は周囲のリンパ節のみならず、少し離れたリンパ節にまで広がっている。

化学放射線療法が注目されているのは手術との比較で大きな差がなくなり、生存率がどんどん近づき、肩を並べようとしているからである。ここでいう手術とは、手術を行う前に抗がん剤を投与する「術前化学療法」。比較試験ではないが、これまでの数字を参考にすると、5年生存率は術前化学療法が約55%、化学放射線療法が約45%、今後、放射線の照射方法や抗がん剤の改良により、まだまだ生存率が伸びることが期待できる。

さらに、手術は患者の身体に大きな負担をかける。食道を切除後は食道の代わりとして胃を吊り上げる。当然、胃の働きは損なわれる。

一方、化学放射線療法は食道をそのまま残すことができる。ならば、QOL(生活の質)は低下しないのか……。ここには多少の問題が残っている。放射線でのどや食道に炎症が起き、抗がん剤で吐き気や食欲不振なども起こる。

それ以上に問題なのは化学放射線療法から半年、1年後に出てくる“晩期障害”である。放射線は昔と比べると、よりピンポイントに照射できるようになってきたとはいえ、やはり、まだまだ肺や心臓といった周辺臓器に影響を及ぼす。それによってQOLを大きく低下させることもあるし、場合によっては生命にかかわるケースもある。

副作用はあっても、化学放射線療法を受けた人の約3分の1は治る。が、残り3分の2の人は、がんが残ってしまったり再発したりしている。

その3分の2の人は、手術を行えばいいと思うだろう。ところが、そこが難しい。放射線が照射されたところは手術をしても傷が治りにくいばかりか、局所は線維化が進んでいる。手術がきわめて難しいのである。

将来、患者自身が「手術タイプ」か「化学放射線タイプ」かがわかって区別ができる診断法ができると、より両方の治療成績がアップするものと思われる。

【生活習慣のワンポイント】

食道がんのリスクファクターは(1)「男性」、(2)「喫煙」、(3)「お酒」、(4)「60歳以上」の4点。最近禁煙したから大丈夫、と思ってはいけない。リスクファクターは積み重ねであって、30年喫煙した人には30年分の積み重ねがある。

そして、今、注目されているのが“お酒と食道がんの関係”――。アルコールは体でアセトアルデヒドに分解され、最終的に水と二酸化炭素に分解されて排出される。そのアセトアルデヒドに発がん性がある。お酒を飲むと顔が赤くなるタイプは、実はアセトアルデヒドを分解する酵素の働きが弱い。日本人の約45%がこのタイプ。アセトアルデヒドを体内に長くとどめるので食道がんのリスクが高くなる。お酒を飲み続けるのなら、年に1回は食道の内視鏡検査を受けるべきである。