<20代>夢より日常業務に注力。「信頼残高」を増やせ

Q 想像していた仕事と違っていた
北尾吉孝●SBIホールディングス 代表取締役、執行役員CEO。1951年、兵庫県生まれ。慶應義塾大学卒業後、野村証券入社。95年、ソフトバンクに入社し常務に就任。著書は『何のために働くのか』ほか多数。

北尾氏回答 日本の大学生が就職活動をする際、仕事ではなく会社を選ぶ。「就職ではなく就社」なのだから、新人の多くが「こんなはずではなかった」という悩みに直面するのは当然ともいえる。逆に言えば、会社側も「この人にはこの仕事をやらせよう」という“仕事”基準ではなく、「この人はうちの風土に合って活躍してくれるな」といった“人”基準で選んでいるわけだから、入社後に「想像していた人と違った」と思っているかもしれない。両者お互いさまの面があるのだ。

学生時代の生活とのギャップも離職の原因となる。会社には、学生時代と違ってさまざまな年代の人が一緒に働いている。目上の人の決定に無条件で従わなければならないことも多々ある。何でも自分で決められた学生時代が懐かしくなって、「もう辞めた」となる若者も多い。

私に言えることは、早まるな、まずは辛抱せよ、ということである。仕事をかじった程度の頃に抱く好き嫌いの感情だけで向き不向きを判断する人は、いつまで経っても自分の望んでいる仕事には巡り合えない。せっかく入った会社である。せっかく配属された部署である。焦ることはない。先輩や上司から言われたことを素直に、腰をすえてやってみることだ。

腰をすえて仕事をするには、担当している仕事の意味を深く知る必要がある。私が新卒で野村証券を受験したときの話だ。最終面接で、当時の副社長に「入社したら何をやりたいか」と聞かれた。「営業がやりたい」「何々部で働きたい」とほかの学生が口にする中で、「実際に働いてみるまで、どこで何をやりたいかという希望はありません。ただ、どんな仕事をしようとも、世界経済の中の日本経済、日本経済の中の金融機関、金融機関の中の野村証券、という3つの側面から物事を考え、仕事に生かしていきたい」と答えたら、副社長が高く評価してくれたそうだ。

同じ金融商品の営業をやるにしても、その3つの切り口で考えると、仕事の意味が変わってくる。同じように、目の前の仕事を3つの側面から考えてみてほしい。自分が今取り組んでいるのはどんな仕事の一部なのか、その仕事は部や課の中でどんな意味を持っているのか、会社全体の中ではどんな位置づけなのか。こういった一段高い目線から、仕事を意味づけてみることだ。このプロセスを経ずに、想像していた仕事と違うといってうなだれることほど無益なことはない。『論語』には「之を知る者は之を好む者如かず。之を好む者はこれを楽しむ者に如かず」という言葉がある。新人はまず仕事を深く「知る」ことだ。それができれば仕事を「好む」段階になれる。「楽しむ」境地に入るのは20代では難しいが、少なくとも「好む」までは到達しておきたい。