2012年5月11日(金)

おいしい野菜の確かな信頼を自らの手で守り抜く

栃木「海老原ファーム」と「Q'sCLUB」の取り組み

dancyu 2011年10月号

梅澤 聡=文 川本 聖哉=撮影

「これ、ちょっと食べてみて」

差し出されたのは、ルッコラの葉だ。

淡い緑色の葉を頬張ると、しっかりとした歯ごたえがある。噛みしだくにつれ、おなじみの胡麻の香りが口に広がる……。驚いたのは、その直後。揮発性の辛味成分が鼻腔の臭覚と痛覚を刺激し、鮮烈な辛さが喉から鼻へと駆け上がる。香りが濃く野性的な味。チーズだけのシンプルなピザにたっぷりと盛って豪快に食したら、いかにも旨そうだ。

「どうです、おいしいでしょう?」

当方の反応を楽しむように、海老原秀正さんが微笑んだ。海老原さんは、おいしさに徹底的にこだわった多品種少量生産の野菜づくりで知られる「海老原ファーム」の代表。独自の栽培哲学が話題を呼び、今や名だたる料理人や料理研究家たちから一目置かれる存在だ。

東北新幹線宇都宮駅から車で1時間ほど。海老原ファームがある栃木県下野市は、古くからかんぴょうやきゅうりの産地として知られている。海老原さんも昭和50年代までは米とかんぴょう中心だったが、ガラス温室でのきゅうり栽培をきっかけに野菜の生産に転じ、現在では約1haの畑で、年間約100種類の野菜を生産している。

自分たちが昔から当たり前のように食べていた、季節ごとに感じる野菜の味や香りはどこに行ってしまったのか? 多品種の野菜づくりを始めるきっかけとなったのは、そんな疑問だった。試行錯誤を重ねるうちに気づいたのは、早く育てようとすると野菜が本来もつ味が出てこない、ということ。ならばゆっくり育ててみようと研究を重ねるうち、あることが生育や味の変化に影響することを発見した。それは“水加減”だ。

たとえば万願寺唐辛子の場合、定植時にわずかな水を与えるのみで、約2カ月後の収穫までほとんど水を与えない。こうすることで、パプリカのように厚みのある肉質と、旨味をたっぷり含んだジューシーな食感が生まれるのだという。

「どんな野菜でも基本は一緒です。水を極力抑えて時間をかけて生育させると、味、香り、歯ごたえ、瑞々しさが全く違うんです」

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梅澤 聡