私も炉心設計者として過去の事故の原因についてはすべて熟知しており、設計に際しては、かつて米国原子力委員会の出した「安全に関する七〇項目」に準拠することは怠らなかった。しかし、スリーマイル事故ではせっかくの安全装置を運転員がわざわざはずし、かつ次々に常識では考えられないような操作を繰り返していった。すなわち、盲点は、「事故時の操作員が狂気になる」という仮定がこれまでの設計思想には盛り込まれていなかったところにある。

機械については、万一作動しないことを考慮して、必ず「原理の異なる三種類の方法で制御せよ」という具合になっているのであるが、論理を失ったオペレーターが次々に組み込んである論理を破壊してゆく、という筋書きは、考えてみればあり得ることかも知れないが、実際には完全な盲点になっていたのである。

そこで想い出されるのが、かのトンプソン先生の設計したわずか5MWの小さなMITの原子炉である。起動時に制御棒を抜いてゆくとき、スピーカーから流れるガイガー管の音が最初のポツ、ポツから次第に大きくガーと鳴ってくる。このときの緊張は筆舌に尽くし難い。失神する人も当然ありなん、ということで、万一手を放してしまっても、重力で制御棒が自然に落下するように仕組んであるのである。明らかに先生は、人間が緊張したときには異常なことも起こり得る、ということを想定し、それを自分の設計に反映していたことになる。