――トップマネジメントは、前向きの意思決定はそれほどきらわない、という性癖を併せもっている。すなわち、いったん泥沼化したところからの撤収はきらっても、泥沼に突っ込もうという提案は、(うまくカモフラージュしてあれば)存外に簡単に呑んでもらえる。これが育て切れない新規事業をたくさん抱える背景にもなっているし、どこの会社でもこま切れの研究開発テーマを日夜つづける結果にもなっている。また海外で買収した会社や設立した子会社の大半が赤字である、という状況にもつながっているのである。

すなわち、これらのことのすべては、「本当に成功する」までにどの程度の経営資源(人・カネ・物)が必要かという議論ではなしに、とりあえず橋頭堡を築くのにどのくらい必要かという議論と、その方向性についての議論――すなわち「アメリカに拠点を確保すべきである」「マイクロプロセッサー技術を社内でもつべきである」という“べき論”の巧みな結合によって、意思決定が演出されている場合が大半である。すなわち川を渡ってしまうことについての議論ではなく、対岸は魅力的である、という議論と、とりあえず岸を離れるための、いわば離陸料だけを入力情報として、意思決定を行なう。

先述のように、このような「前向き」の意思決定にはわが国のトップは本能的に飛びつきやすいという性癖が、極めてうまく宦官群によって利用されていると言うことができよう。また、戦後の“ゴー!ゴー!経営者群”は、走りながら考えることに慣れ切っているため、万一、優れた参謀が「岸を渡り切るまでの総費用一覧」などというものをもって行こうものなら、一蹴されるに違いない。