成熟市場においては、営業担当者がファーストアプローチをする際、最初に大きな壁がある。これから成長が見込める市場では売る側がイニシアチブを持つことができた。しかし、すでに顧客が競合企業とパイプを持ち、基本的なニーズが満たされている現状では、新規の営業担当者は話をする機会すら容易にはもらえない。

その理由は、顧客にとって新規の営業担当者は赤の他人だからだ。人にはパーソナルスペース(他人に入ってきてもらいたくない物理的距離)があるが、まさに営業は顧客の精神的なパーソナルスペースに入り込む行為といえる。

見ず知らずの営業担当者がいきなりそこに入り込もうとすれば、顧客が不快感を覚えて拒絶したくなるのも仕方がない。これを避けるには、まず営業担当者と話をするメリットを感じさせる必要がある。いきなり肩に手をかけると相手は身構えるが、「背中にゴミがついていますよ。取りましょうか?」と声をかけると、受け入れられやすくなるのと同じだ。

このように、メリットの提示から会話の意思確認をする手法を、当社ではカットイン・アプローチと呼ぶ。カットインは原則的に「ワンメリット・ワンクエスチョン」で行う。まず相手にとってのメリットを一つの短いセンテンスで伝え、それに関連した形で相手の共感を呼ぶ質問を投げかける。具体的には次のようになる。

「今日はコストを30%削減するご提案を持ってまいりました(ワンメリット)。原油の高騰で、コスト負担が重くなっていますよね?(ワンクエスチョン)」

理想は訪問前に調査して、相手が興味を持つ内容について仮説を立てることだろう。それが難しい場合でも、法人なら売り上げ増やコスト削減、個人なら節約、生活の質の向上といった普遍的なテーマであれば顧客の共感を呼びやすい。