では、こんな考え方を現代に活かした例はあるのだろうか。実は、パソコン業界にうってつけの話があるのだ。

1990年代、各社が様々なパソコンを登場させ、激しい競争を繰り広げるなか、直接販売とユーザーのカスタム注文で躍進したのがデルだった。当然、ライバル企業としては、何とかデルを叩かなければならない。

そこである社が採った手は、サーバ事業で出た利益をパソコンにつぎ込み、安売りを仕掛けることだった。

対してデルは、自社のパソコンを安売りして、この競争に応じる策は採らなかった。ではどうしたのか。デルの創業者マイケル・デルは、こう述懐している。

「1996年9月、デルは新しいサーバー製品シリーズを競争力の非常に強い価格で発売した。市場は爆発的に拡大した」

「サーバー分野でのライバルの利益を削り取ることで、ノートやデスクトップなど、やはりお互いに競合している他分野で彼らが大胆な価格を設定する能力も弱まったのである」(『デルの革命』マイケル・デル キャサリン・フレッドマン共著 國領二郎監訳 吉川明希訳 日本経済新聞社)

デルはこれを「柔よく剛を制する作戦」と呼んでいる。確かに、柔らかい頭で剛強な敵を倒してしまうところに、謀略の神髄はある。

●=まだれの中に龍
◎=月に賓

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