東大工学部物理工学科出身の河村は卒業後、日立系の日製産業(現・日立ハイテクノロジーズ)に営業マンとして入社した変わり種だ。

研究開発の道に進まなかったのは「大学のときにトップレベルの人に出会い、かなわないと思ったから」。自分なりの強みを身につけるため、海外営業を志望して商社へ入ったのだ。

その決断が功を奏し、05年当時は外資系のEMCジャパンで営業担当の執行役員として腕を振るっていた。しかし一方、「営業一筋でやってきたので、全社を束ねるには総務や財務の視点も必要」という課題意識を感じていた。平たく言えば、社長になるにはもう一段の勉強が必要だというのである。

では、どこで学べばいいか。留学を含めていくつかの選択肢があるなかで、河村はこう考えたという。

「30代だったら違うでしょうが、そのとき私はもう40代後半でした。仕事にブランクができる海外留学という手段は採りにくいと思いました。だから、働きながら学べるEラーニングの大前経営塾を選んだわけです」

まとまった時間をとれない河村のような第一線のビジネスマンは、自分の勉強不足に気づいてもなかなか本格的な学習には踏み出せない。しかし、ネットを活用した遠隔学習なら時間的・空間的制約が少なく、効果的な学習を進めることができるのだ。

もっとも、毎月数冊の課題図書を読み込み、レポートを作成するなど学習の中身はハードである。

受講者はまず、独自編集の講義映像や書籍をもとに、年間約70時間におよぶ遠隔授業を受ける。そして受講後、パソコンからインターネット上の掲示板である「エアキャンパス」にアクセスし、講義内容やテーマに関してディベートを繰り返すのだ。

「いまは変化が激しい時代です。トップもミドルも新人も、全員が学び続けなければいけません。社長だけ勉強をしていないとしたら、部下に失礼です。海外の経営トップも勉強をしていますよ」

だから河村は読書を重ね、人と会い、大前研一ライブの視聴を続けている。

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(宇佐美雅浩、的野弘路=撮影)