2月下旬、仕事で訪れたカリフォルニア州ロングビーチで、アカデミー賞の生中継を見た。

主演女優賞のメリル・ストリープは29年ぶり2度目の受賞。(写真=Getty Images)

ハリウッド映画と言えば、巨額の利益を挙げるアメリカの代表的な産業である。そして、アカデミー賞の授賞式と言えば、レッド・カーペットの上をセレブたちが最新のファッションに身を包んで歩いていく様子が浮かぶ。

最初から最後まで授賞式を見たのは初めてだった。一部始終を観察して、きらびやかさと同時に、「質実剛健」とも言うべき、手堅いその手法にむしろ感銘を受けた。

賞にとって最も大切なのは、それがどのように決定されるかということ。アカデミー賞は、俳優や監督、脚本家などからなる約6000名の会員が投票して決定される。少数の有力者が密室で協議して決めるのではない。まさに「草の根民主主義」。アメリカの精神をそこに見る思いがする。

さらには、プレゼンターが封筒を開けて受賞者をアナウンスするまさにその瞬間まで、結果は集計を担当する専門の会社以外、誰も知らないのだという。きらびやかなセレモニーの陰に隠れた精緻な作業に心が惹かれた。

インターネットの隆盛によって、「一人ひとりがメディア・カンパニー」とさえ言える現代。世間で話題になったり、評判を呼んだりすることは、ビジネスがうまくいくために欠かせない。そんな意味で、約200カ国で放送されるというアカデミー賞授賞式は、一つの卓越したモデルと言えるだろう。

人々の関心を惹き付けるためには、レッド・カーペットの上を着飾った有名人が歩いたり、賞の発表の合間にさまざまな見せ物を用意するなど、エンターテインメントとしての工夫が欠かせない。