家族のタイムテーブルに
従い、間取りはルーズに

3つ目に、私は必ずご家族のタイムテーブルを書いてもらっている(図参照)。家を建てる時点での家族構成や年齢にぴったり合うようにつくり込んでしまうと、早ければ5年で住みにくい家になってしまうことさえある。人間は必ず年をとるものだからだ。

そこで私がお勧めしているのは「割り算」。すなわち子どもの成長、あるいは両親との同居の可能性などもあらかじめ想定して間取りの可変性を確保しておこうというものだ。

例えば部屋にはドアを2つ付けておく。子ども部屋なら小さいうちは2人で1つの部屋でいいが、自立心を持ち始めたり、受験の時期が来たら間仕切って個室2つに分けられるようにしておく。子どもたちが成長して巣立った後は、もとの1部屋に戻してもいいし、別の空間として利用することを考えてもいい。部屋に出入り口が2つあると可変性はもちろん、住まいの動線に回遊性が生まれ、格段に住みやすくなる。

可変性の確保や間取りをルーズに考えるという発想は、そもそも日本の伝統的な住まい方だ。今でこそ日本の家もダイニングやリビング、寝室など、空間の用途によってプランニングされるようになったが、かつては6畳間、8畳間など、空間の広さだけが認識され、部屋名などなかった。昼間は卓袱台を出して家族でご飯を食べ、近所の人がやってきて一緒にお茶を飲み、学校から帰ってきた子どもが宿題をする空間で、夜になると布団を敷いて寝ていたのだ。

こうした暮らし方は、今でもそれとなく伝承されている。例えば小学生ぐらいまでの子どもは自分の部屋ではなく、両親と一緒に、いわゆる川の字になって寝ているケースが多いだろう。欧米の住宅では考えられないことだが、この柔軟で臨機応変な住まい方こそ日本の住宅の特長だ。

家づくりでは、建築家やハウスメーカーなどの専門家の提示するさまざまなプランを検討する中で、自分たちがどのように新しい家で暮らしていくのかがだんだんと整理されてくる。その過程で大切なのは、専門家や知人が勧めるからなどと人まかせにするのではなく、最後は自分たち家族でこのプランにすると「決心」することなのだ。

車なら実際にいろいろな車に試乗し、比較検討した上で決められるが、家の場合は、いろいろな家に同時に住んでみて実際の住み心地を比較検討して決めることなどできないからだ。自分たちで決めたのだということで、この家でこんな暮らし方をしていくとの覚悟もできる。かくして、わが家はまぎれもなく自分たち家族にとってかけがえのない最も心地よい空間になっていくのではないだろうか。