次に注意すべきことは、せっかく新しい家を建てるからといって、実現したいことをあれもこれもと盛り込み過ぎないことだ。

「子ども部屋、6畳は必要だな」 「客間も必要よ。泊まっていただくとしたら和室がいいわね」 「狭くていいからじっくり本が読める書斎も欲しいな」 「家計簿をつけたり、インターネットで人気のレシピやお買い物情報が見られる家事室もね」。数多くのご家族から異口同音に聞こえてくる間取りについてのご希望だ。

しかし、ちょっと待ってほしい。子ども部屋をそんなに広くとっても子どもは部屋にいない。ひと昔前ならいざ知らず、今どき泊まりがけの客を迎え入れる機会がそれほど頻繁にあるだろうか。じっくり本を読んだり、家計簿をつけたりする時間帯は、おそらく子どもが自分の部屋に引き上げた、あるいは家族が会社や学校に出かけた後。それならリビングのソファでも、ダイニングテーブルでも、もっとゆったりできるのではないか。むしろ必要なのは書庫や収納スペースだろう。

実際、書斎や家事室はいつの間にか物置になってしまう例は数多いし、和室をやめてリビングを広げたいとの希望はリフォームの定番だ。

そこで私は、新しく建てる家のテーマを決めましょう、とお勧めすることにしている。例えば、いつも来客が絶えない、人を招く家にしたいのか、プライベートな時間を第一に、自分たち家族がゆったりくつろげる家にしたいのか、あるいは趣味をじっくり楽しめる家にしたいのか─。わが家のテーマが決まれば、自ずと家づくりの方向も定まってくる。あれもこれもと入れてしまうと、結局はいろいろ入っているけれどこれといった特色のない幕の内弁当のような家になってしまうのだ。

私の設計の基本はCUT&GET。求める暮らし方に最も合う家をGETするため、施主の求めるライフスタイルを尋ね、予算などさまざまな条件を勘案し、数多くのプランを考え、そこから優先順位をつけてCUTし、これしかないというプランを提案することにしている。

最初のうちは、大半の希望の項目が削られ、不満そうな顔をしているご家族も、自分たちが1番大切にしたい時間を心地よく暮らすためのプランであると説明すると、納得していただけることが多い。そうして「引き算」をしていくうちに、これだけは譲れない自分たち家族の暮らしに本当に必要な空間、間取りが見えてくるものなのだ。