構内で小売りの空間「エキュート」を運営するJR東日本ステーションリテイリング。その本社では毎週木曜の朝礼で「笑顔トレーニング」を実施している。社長以下、全社員が顔の筋肉をほぐし、声を出しながら、笑顔づくりに励んでいる。

「朝から笑顔トレーニングをすることで眠気がとれ、仕事にとりかかるのがスムーズになった」(社員)

「朝から笑顔トレーニングをすることで眠気がとれ、仕事にとりかかるのがスムーズになった」(社員)

同社営業部の有座邦雄部長はその重要性について、こう説明する。

「エキュートは駅の構内にあります。立地はいい。しかし、今の時代、立地と品揃えがいくらよくても、それだけでは勝負できません。サービス、つまり現場にいる社員や各店舗の販売員の笑顔が売り上げを左右するのです」

確かに彼の言うとおり、ひとりの不機嫌な販売員がムスッとした顔で対応しただけで、エキュートの評判も、ひいてはJR東日本に対する印象も悪くなってしまうだろう。

「エキュートにある各店舗でも、サービス面の研修はそれぞれ行っています。しかし、十分ではありません。全体の研修も必要なのです。そこで、私たちは全体研修を行い、そこでは笑顔でお客さまを迎えることの重要性を話し合っています。笑顔は技術です。筋肉を鍛えて笑う習慣をつくれば誰でも笑顔上手になれるのです」(有座部長)

私は同社の笑顔トレーニングを見ていて、「国鉄も変われば変わるものだ」という感慨を持った。私たちオヤジ世代は、おっかない顔をした駅員が改札口に仁王立ちして切符を切っていたことをいまだに忘れていない。あの頃の国鉄職員は指差し確認はやっていたけれど、笑顔トレーニングなど絶対にやっていなかったのではないか。

思えば国鉄は、ぽっぽや(鉄道員)だった。笑顔など必要なかった。しかし、JR東日本はそうはいかない。鉄道事業だけの会社ではなくなった。おっかない顔で物を売るわけにはいかない。同社の笑顔トレーニングは業績を伸ばすうえで、欠かせない武器なのだ。

(尾関裕士=撮影)