私は『マラソンランナー』という拙著で、日本が生んだ歴代のランナーたちの列伝を綴ったことがある。戦前、一時代をつくった金栗四三、孫基禎から、戦後の名ランナーである君原健二、瀬古利彦、谷口浩美ら、そして女子マラソン時代の扉を開けた有森裕子、高橋尚子に登場してもらった。彼らが刻んだレースの足跡をたどることは日本人の精神史をたどることでもあった。

近年でいえば、女子に比べ男子はややさびしい。学生時代、駅伝で実績を残しつつ、マラソンでは花開かなかった選手、怪我で夢破れた選手も少なくない。未来は未知というほかにないが、一流のマラソンランナーはすべて「気と運」、そして「自分の言葉」を持っていた。この条件に柏原はあてはまる。そして、従来のランナーたちとはひと味異なる新世代であるようにも思える。

マスコミ関係者のなかでは、柏原はマラソンに向いていない、という声もある。

「ええ、知っていますよ。そんな記事も目にしました。でもまあ、いまに見とけよということです」

その言やよしだ。好きな言葉は「夢はきっとかなう」。より大きな舞台で、夢かなうときを期待を込めて待ちたいと思う。

※すべて雑誌掲載当時

(若杉憲司=撮影)