対話の場さえあれば、未来が創り出せるとは限りません。そこには強い意志と、正しいプロセスが必要です。
野村恭彦●イノベーション・ファシリテーター。国際大学グローバルコミュニケーションセンター(GLOCOM)主幹研究員。富士ゼロックス株式会社 KDIシニアマネジャー。K.I.T.虎ノ門大学院ビジネスアーキテクト専攻 客員教授。 ©Eriko Kaniwa

私たちの組織にも、コミュニティにも、対話の場が必要です。しかし、井戸端会議や寄り合いが復活するだけでは、十分ではありません。複雑な問題の解決が、フューチャーセンターの最大の目的であることを忘れてはならないからです。そのために、フューチャーセンターには、どんな方法論が必要なのでしょうか。

その探求に向けて、私たちは米欧日の知を寄せ合う作業を丁寧に行いました。米国のボブ・スティルガー氏は、アート・オブ・ホスティングという「対話の方法論」を持ち込みました。欧州のフューチャーセンター・アライアンス共同創業者のハンク・キューン氏は、シナリオプランニングなどの「未来思考の方法論」を持ち込みました。そして私は、長きにわたるIDEOとの協業から体得した「デザイン思考の方法論」と、加えて日本固有の「知識創造の場の方法論」を持ち込みました。

米欧日の三極の電話会議では、何度となく「激論」が交わされました。論点は、「対話」だけで未来を創り出せるのか?というものです。

この議論は「フューチャーセンターに必要な方法論が、対話の方法論に偏りすぎている。それはきわめて重要だが、全体の一部にすぎない」というハンクの問題提起から始まりました。

対話だけで未来を創り出せるのか、という問いに対し、私自身は以前であれば「ノー」と答えていたと思います。しかし、今は「イエス」と答える自信があります。その自信の根拠は、数多くのフューチャーセンター・セッションの経験の中で紡ぎ出した、「未来のステークホルダー」という概念の発見でした。

「未来のステークホルダーとの対話が、未来を創る」という確信を持つことができると、アウトプットを焦らずに、対話のプロセスを大切にすることができます。多様性の高い参加者の間で、相互理解・信頼の関係性を構築することによって、一つの最適解が存在しない複雑な問題に対して、それぞれの立場から協調的アクションを起こしていくことが可能になるからです。これを抜きにして、いきなり解決を前提に問題の議論を始めてしまうと、異なる立場の人同士が主張し合い、堂々巡りをすることになります。対話の方法論では、個人的な感情や経験などの物語を共有することで、相互理解に加え、自分自身の内省や思考を深めることを促進します。対話は、決して遠回りではなく、最終的にアクションにつながるスピードを高める方法論でもあるのです。