日本発のLCC第1号として、関空-札幌、関空-福岡の2路線から就航を開始するのはピーチ・アビエーションだ。ANAが38.67%を出資しているとはいえ、独立の経営体である。ANAを辞め退路を断ってピーチ設立に動いた代表取締役CEO井上慎一氏をはじめ、従業員はみな新規採用だ。

「LCCのビジネスモデルは従来のものとはまったく違う。目指すのは『空飛ぶ電車』。このコンセプトに基づいて、コスト削減ではなく“コストマネジメント”を図っている。楽しみながらやりくりをしています」

LCCの利益率の鍵は、1座席を1キロ飛ばすのにかかる費用(原価)にある。FSAの平均が5円なのに対して、ライアンエアーは2.3円、エアアジアにいたっては1.81円と3分の1に近い(航空経営研究所調べ)。原価を抑えるには、機材、空港費、人件費、燃油費、販売費などあらゆる要素を見直さなければならない。

最初のポイントは機種の選択だ。座席の収容力と燃費のよさ、乗客の乗降時間が短くすむA320かB737。短距離向けの機種のどちらかに絞り込めば効率はよく、1つの機種ごとにトレーニングを受け資格を取得しなければならないパイロットや整備士の育成費用が軽減できる。機材が新しければメンテナンス費用も少なくすむ。これはLCCの定石だ。

関西国際空港内にあるピーチのオフィス。掃除は社員が持ち回りで行う。「削減コストはわずかだが、意識の改革になる」(写真左・井上氏/写真右・角城氏)。

ピーチもA320の新造機10機を2年かけてリース契約する。座席数は横3-3列の縦30列で合計180席。FSAの約160席と比べると窮屈さは否めないが、LCCとしては標準クラス。ただし座席はすべて革張りだ。高級感を演出するためだが、拭くだけで掃除が終わるという理由も大きい。すべての選択にコストマネジメントの狙いがある。

空港でかかる費用も全面的に見直した。ANAで長年パイロットとして勤務し、定年退職後にピーチへと転職した取締役の角城健次氏は言う。

「飛行機は自力でバックできないことをご存じですか。バックさせるときには専用の車両を使いますが、費用が発生するので関空の滑走路には斜めづけで着陸します。これならバックせず、Uターンして離陸できますからね。空港では、利用料が高いボーディングブリッジ(搭乗橋)も使いません(笑)」