小学校のとき、学校の先生から、「勉強はみんな大切だけど、文章を書く力だけは身につけておいたほうがいいよ。社会に出てから役に立つよ」としばしば言われた。

そのときは、そんなものかな、と思っていたけれども、今になってわかる。確かに、文章を書く力は、社会人としての基礎的な「インフラ」である。そして、仕事を進めていくためにも、力のある言葉の助けは欠かせない。

会社などの組織でも、文章力は大いにものを言う。組織が大きくなるほど、直接会って話すことができない人が増える。「文章」を通しての「遠距離」のコミュニケーションが不可欠となる。

課題になるのは、いかに人の心を動かすかということであろう。論理だけでは足りない。かといって、情に流されてもいけない。言葉を発する人の人生のさまざまが凝縮して文章に表れたとき、それを読む者の心と体はすでに動き始めている。

文章の重要性は、インターネット時代になってより大きくなってきている。人々が書く文章の量も増えてきている。仕事のうえだけでなく、プライベートでも、ツイッター、フェイスブックなどのソーシャル・メディアを通した文章のやり取りが加速している。

ソーシャル・メディア全盛時代には、一人ひとりが情報を呼吸する「メディア・カンパニー」となる。そして、「自分」ブランドを育むためにも、文章の力を高めていくことは欠かせない。

今や、文章力は現代人にとって「空気」のような存在であり、文章力を磨くことが「自分」というブランドを高めるために不可欠の要素だということができるだろう。

ところで、「私は文章が書けないんです」という方が時々いる。何か書こうと思って机に座っても、言葉が出てこない。あれこれ悩んでいるうちに、時間だけが虚しく過ぎていく。そんな経験をした方も多いのではないだろうか。

脳の働きから言えば、言葉を発するときに大切なことの一つは、「脱抑制」である。言葉を生み出す回路は、意識でコントロールできるものではない。側頭連合野の中にこれまでに蓄積された言葉のアーカイブから、文脈に合わせて言葉を紡ぎ出す、そんな無意識のプロセスが課題となる。