どんなに成功している事業でも、必ずその由(よ)ってきたる理由というものがあるはずで、これを見失って経営者の欲望のおもむくままに進みはじめれば崩壊は疑いない。このため、先見性のある経営者なら、自分はどのような顧客のために、どのようなサービスを提供し、どのようなメカニズムで収益を上げているのか、ということを寸時も忘れることはしないだろう。

こうすることによって、初めて世の中の構造やニーズが変化したときに事業存立要因そのものも変化した、という判断が下せるわけで、このような経営者が方針を変えるというときには、それなりの十分な読みと理解があるのである。だから外から見れば、あたかも方向転換しているように見えても、それは獲物の方向に合わせて照準し直しているだけのことで、本文で事例として出した基本仮定を忘れてしまった人々とは本質的に異なるのである。

こう考えてくると、先見性の必要条件としては事業領域の規定と明確なストーリーの作成であるが、それだけでは十分ではなく、自らの経営資源の配分にムダがなく、また原則に忠実で、かつ世の中の変化に対しては原則の変更をも遅滞なくやってゆくという十分条件が揃わなくてはならない。こうして初めて、一連の先見性を持った偉大な経営者の群列に加わることができるということができよう。