いかなる戦略計画からもリスクを排除することはできない。万一リスクを冒したくなければ、効率向上やコスト低減といったオペレーショナルな改善しか打つ手はない。ほとんどの事業はそれで十中八九はよいのであろうが、何年かに一度は、どのような事業でも戦略的岐路に立たされるであろう。

このことは、ボートやヨットの競技とよく似ている。オペレーショナルな改善というのは、全員が呼吸を合わせ、思いきり体を前傾し、力の限りオールを引くことである。また、船底をなめらかにして、水の抵抗を少なくする努力にも似ている。しかし、万一コックスがボヤボヤしていれば、このようなあらん限りの努力も徒労に終わるだろう。戦略的改善はこのコックスが行う軌道修正の機能と同じである。それは効率改善などでは間に合わなくなった潮流の変化に対し、思い切った舵をとることである。ここでは「方向」が最も重要な要素であり、同じ努力をするなら、風向きと潮流を的確につかんでからにしよう、という基本思想がある。

ボートは基本的には直進するので、あまり好例ではなかったかもしれないが、外洋のヨットレースに置き換えていただければ、この方向性の問題がいっそうよくわかると思う。ここでは、基本的方向の選択がきわめて重要で、極端な場合にはスタート時点では、競争相手と反対の方向に航走しはじめることだってある。この時点で、先行きに対する読みと、ある程度のリスクを甘受した英断を下さなければならない。最初から目的地が東にあるからといって、東だけを指して進んでいたのでは、リスクは少ないかわりに、勝利は遠のくだろう。