マッキンゼー社の今から三代前の社長だったジル・クレーは、一九五九年に「多国籍企業(Multinational-Enterprise」という言葉をつくりだした。アメリカの多国籍企業が主としてヨーロッパに進出するお先棒をわれわれも担いだわけだが、その当時の多国籍企業の論理というものは「世界中で最も原材料の安いところからそれを手に入れ、最も労賃の安いところでそれを加工し、最も値段の高いところでその商品を売る」という、まことに勇ましいものだった。

したがって「もはやアメリカ合衆国とかイギリスあるいは日本というような国籍にとらわれてはいけない。国というもののワクを超え、世界を一つとして商売をすることで初めて巨大な富が享受できる」というのがその根本にある考え方だった。しかし、一五年後の今日をみると、実はそういった単純な均質化された世界などはなくて、一つずつの国で異なった税法があり、法律があり、イデオロギーがある。こういう事実がますます明らかになってきている現在、世界が一つの市場といった考え方はできなくなってきている。(中略)世界戦略を立てる場合、世界は一つとして考えるのではなく、個々に一〇〇いくつかの国を勉強してからでないと外国に簡単に出ていかれない。こういう現象は、少なくとも六〇年代にはほとんど存在しなかったか、あるいは無視することができたのである。