自社の「強さ」はシェアではなく、その業界で「かせげる能力」に対して大きいのか小さいのか、という評価をしなくてはならない。シェアは瞬間風速であって、ベクトルではない。「自社の強さ」というのは、当然業界における収益力増強に関して、ベクトルの方向と大きさがどうなっているかを判断するのでなくては意味がない。

シェアを自社の強さの直接的尺度であると判断するのが危険であるもう一つの理由は、その定義の不可解さである。私のお客さんの中には、自分の参入市場をなるべく狭義に定義し、シェアを高めに計算する癖のある会社もある。また、ある多角化した会社などは、事業部にシェアの申告を任せているので、あるときまでは広い市場におけるシェアを指していたが、急に中間の新市場を開拓した競争相手が現れてくるや、その部分を無視するようになり、実際の戦略はこの新参者に対するものでなくてはならなかったのに、心の中で恐怖感を、上役に見せるデータの上ではシェア漸増の勇ましい姿を、という二重人格に悩まされ、効果的な打つ手を口に出せないまま縮退市場の犠牲となってしまっていた。(中略)

シェアがほとんど戦略的意味を持たない例として、クリスタル(仮称)と呼ばれる高級耐熱ガラス食器の場合があげられる。日本には参入メーカーが三社あって、それぞれ立派な業績を生んでおり、品質などにおいても甲乙つけ難いのではないかと思われるが、シェアは元祖であるA社のものが高い。ところが、よく調べてみると、競合メーカーはあるのに実際はあんまり競合していない。早い話が同業者とは競わないのである。

例えば、デパートに行ってこれらの商品の売れる状況を見てみると、食器売場で売れるよりも、贈答品売場で売れるほうが多いのである。しかも、その場合には、隣に並んでいるのは、同種製品ではなく、味の素の詰め合わせ、サントリーのダルマであったりで、要するにお客さんとしては「四〇〇〇円相当の贈答品の購入者」として定義されるべき人々なのである。しかも、おそらくこのうち被贈答者が新婚であったり、新築であったりというカテゴリーに属する人なのであろう。したがって、市場のセグメンテーションは、自分で使うために買う人と、贈答物として買う人とに分け、それぞれの分野でのシェアをうんぬんしなくては改善案というものが生まれてこない。

解決策は、したがって「味の素」ではなく「クリスタル」を買わせるにはどうしたらよいか、という問いに対する答えになっていることが必要である。