夏休みで妻と息子を実家に帰したので、久しぶりに日曜日に近所のスーパーマーケットに買物に出かけた。(中略)いざとなると、何からどのように買ったらよいか、まるでイメージがわいてこない。いきなりインスタントラーメン四個とジュースに手が届いてしまっていた。

よく考えてみると、何を買ったらよいのかわからないのが当然で、まだ何をつくるかを決めていないのであった。そこでまず、昼は会社で食べるのだから朝と夕方の分があればよいだろうと考えた。「朝」となれば話は簡単で、卵、パン、ベーコンで三拍子が揃ってしまった。ついでに残りものがあったかどうか自信がなかったので、バターとジャムを購入した。だが調子の良い話はここまでで、夕食になると料理名が浮かんでこない。料理名がないと意外にも材料の買物ができない。深層心理では「カレーライスにしてしまいなさい」という悪霊の誘惑をしきりに振り切っているのだが(私は料理を家内に教えたことに少なからぬ誇りを感じているのだ!)、手はもうカレーのルウに伸びてしまっている。肉もシチュー用というのを買い込んでしまっている。これではもうカレーを一晩ぐらいつくることはやむを得ないだろう、と考え、じゃがいもや玉ねぎなども買い込んでしまった。

このあたりから論理的な裏付けがだんだん薄くなるのに気がついていたのだが、いわゆる衝動買いの犠牲となり、次から次にカートの中にほうり込む羽目になってしまった。(中略)

結局、合計九八二〇円也の雑多な食料品を買い込んだことになった。それでも私は、なに七日間もてば一日一四〇〇円にすぎないさ、などと慰めの論理を探していた。しかし、この慰めも冷蔵庫と対面して吹き飛んでしまった。スペースがないのである。家内は腐るのを恐れて、ほとんど冷蔵庫の中を空にしていったので、私の買物が競合反発に遭遇したわけではない。やむなく私は購買品に冷却の優先順位をつけて、じゃがいもや玉ねぎなどは入れないことにし、かつ当夜の食事に使う予定であった材料を外に出すことによって、かろうじて設備能力増加の誘惑(冷蔵庫の大型化への追加投資)を振り切った。

こうして、私の“やもめ”生活もようやく順調に進むかにみえたが、二~三日もすると、冷蔵庫の中で変な臭いがしはじめた。豆腐をみそ汁に入れるつもりで買ってきていたのが、腐敗しはじめていたのだ。これで、九八二〇円の投資の未回収第一号が発生することになり、私は廃棄処分にした。