上場子会社を完全子会社化することによって、親会社の支配力を強化しようとする動きがある。筆者はその長短を明らかにしたうえで、親会社、子会社にとっての大きな発展の芽が摘まれてしまう可能性があると説く。

なぜ上場子会社は高い業績を挙げるのか

日立製作所が企業グループ再生の一環として上場子会社の完全子会社化に取り組むことを決意し、日立プラントテクノロジー、日立マクセル、日立情報システムズ、日立ソフトウェアエンジニアリング、日立システムアンドサービスの5社についてTOBをかける予定であることが報道された。上場子会社の完全子会社化あるいは、上場関係会社の子会社化によって親会社の支配力を強化しようとする動きは、すでに他社でも行われている。

かつてパナソニックは松下電工(当時)の50%超の株式を取得し、少数所有の関係会社から、過半数所有の子会社に変えた。ソニー、NEC、富士通、三菱電機などでも同様の動きがみられる。

このような動きの狙いはよくわかる。しかし、私は、このような動きがそれぞれの企業グループにとって長期的にいい結果をもたらすのかどうかということに、不安を持っている。

吉村典久氏(和歌山大学教授)の『日本の企業統治』(NTT出版)によれば、日本の上場会社のうち、親会社が過半数の株式を保有する上場会社は10%、親会社が少数所有(20~50%未満の株式を所有する)の上場会社は22%である。上場会社の3社に1社は他の会社の子会社あるいは関係会社だということになる。

これほど多くの上場子会社があるということは、日本では子会社上場にメリットがあるということを暗示している。吉村氏は、上場子会社は一般の親会社より業績がいいというデータを示し、高い業績を挙げる原因を複式会社統治(ガバナンス)にあると分析している。

複式会社統治とは、親会社によるガバナンスと株式市場によるガバナンスが同時に行われているということである。複式ガバナンスは、いずれか一方のガバナンスよりも子会社の統治がよりよく行えるというメリットがある。親会社は、市場による評価を参考にしながら子会社の評価を行うことができるし、市場は子会社の統治を親会社にゆだねることによって、専門家によるより効果的な統治を期待できる。

市場で高い評価を受けている限り、子会社の経営陣はより大きな経営に関する自立性を確保することができるので、よりよい経営を行おうとする強いインセンティブが働く。子会社は、自立性を持ちながらも、親会社の経営インフラ(管理統制システム、共通サービス、技術開発能力や知的財産、販売網、信用、ブランド)を利用することができる。これらが上場子会社に高いパフォーマンスをもたらしていると考えることができる。

子会社の上場は親会社にとってもメリットがある。子会社を上場することによって、親会社は上場益を確保することができるし、子会社の経営陣のコミットメントを高め、よりよい経営を行わせることができる。子会社上場は、日本の産業発展のプロセスでも重要な役割を演じてきた。