良くも悪くも科学は現代社会を揺るがす要素の一つとなっているが、科学の総体を知ることは決して容易ではない。本書はその全体像を把握するために役立つポピュラー・サイエンス本を集めて解説したものである。

著者は日本を代表するSF作家で、理系大学院在学中に書いた『パラサイト・イヴ』で日本ホラー小説大賞を受賞した。ベストセラー小説家が理系本のレビューを書けば、親切なナビとなる。なにしろ文章と科学の両方をよく知っているからだ。

ここで興味深いのは、評者自身がこれまで紹介した本がいくつも含まれている点だ。すなわち、良い本は誰が読んでも良い本なのである。また、選んだ本の横に添えられた双葉マークと本葉マークも、読者の便を考えた親切な試みである。こういう工夫を惜しまないところに、著者の人柄がよく表れている。

科学の本を読むとは「宇宙に調律される」ことだ、と著者は言う。「科学書の多くは、むしろ読むとあなたに新たな疑問や謎を残すでしょう。本のページを閉じた後、世界はもとに戻るのではなく、むしろ変化して見えることでしょう」(8ページ)。すなわち、自分の考えをそのまま押し進めるために読むのではなく、自分が思いもしなかった世界を突きつけられて、「本来の宇宙に調律される」ことが科学の本を読む姿勢なのだ。

そもそも読書する際には2つの読み方があるだろう。一つは自分のこれまでの知識や経験を確認し強化していく読み方だ。自ら気に入った本を選ぶのだから、知らず知らずにこの読み方をすることになる。こうした読書は自分を肯定していくので非常に楽しい時間ともなる。

もう一つは、新しい考え方を自分の人生に搭載して、自らを変えてゆく読み方だ。価値観の転換、あるいは今まで信じてきたことが崩壊するような読書。そうした本に出会った場合、世間に跋扈(ばっこ)する「速読法」などはまったく役に立たなくなる。

最後のページを閉じてあたりを見回すと、部屋の灯(あか)りや見慣れたはずの風景がまったく違って見えてくる。こうした感覚について著者は、「宗教観も生活習慣も違う異国の人々に想(おもい)を馳(は)せ、見ることさえできないはるかな宇宙のイメージに胸躍らせる、人間ならではの読書の歓(よろこ)び」(9ページ)と見事に表現する。

したがって、科学書の読書は人生において「小さな革命」を起こすことにも繋がると言うのだ。「自由を求めて社会を変えることを革命と呼びますが、科学の本を読むことは、ささやかな娯楽であると同時に小さな革命なのだと思います。この世界を、宇宙を見るために、自分が少しだけ変わるのですから」(9ページ)と美しく記される。さて、読者諸氏はどちらの立場で本書を手に取られるだろうか。

科学と書物の世界の魅力をこうも鮮やかに表現できる著者は、少ないのではないか。きわめて知的で良質な書評集である。