メディシン社が採用した「価値に基づく価格設定方式」は、顧客にとっての製品の価値が価格設定時の重要な要素であると認識し、その価値を理解しようとするやり方だ。グービル教授によると、まず、メディシン社がさらに臨床試験を重ねたところ、患者に必要なアンジオマックスの量はヘパリンよりもかなり少量であることがわかった。ヘパリンの投与が4回必要だったのに対し、「アンジオマックスでは、血管形成術患者の7割が1回、残りの3割が2~3回の投与を必要とした」と同教授は記している。次に、メディシン社は価格設定と製造工程との関係に着目し、製造コストを削減して、顧客(病院)が納得すると思われるレベルにまで価格を下げることに成功した。同社はまた、病院側に対し、アンジオマックスはヘパリンに比べるとかなり高価格だが、優れた信頼性と予防効果を考えれば結果的には大きな費用節減につながることを明らかにした。

価格は利益に対して累積的影響を与えるため、最適価格よりも低い価格設定をすると、企業の業績に巨額のダメージが及びかねない。では、製品の正しい価格設定を習得するにはどうすればよいのか。

部門を超えた統合的アプローチを

新製品が発売される際の価格は、ひとつのプロセスから生じた結果である。このプロセスが正確かつ信頼できるものであることが、市場とメーカーにとって最適な価格になるかどうかの決め手となる。

したがって、価格設定は製品開発プロセスにとって欠かせないものだ、とストラテジック・プライシング・グループの社長兼CEOで、『The Strategy and Tactics of Pricing』(邦訳なし)の共著者でもあるトーマス・ネーグルは語る。「製品となる前の、単なるコンセプトの段階から価格について考え始めよ」と彼は言う。ネーグルは、日本の価格設定方式からヒントを得る米企業が増えていると指摘する。「米企業はコストをまかなう価格を設定するのではなく、値頃価格を満たす製品を企画し始めている」と彼は言う。

価格設定と製品開発の統合以外にも、部門を超えたアプローチで新製品の価格設定に取り組んでいる企業もある。ストラテジック・プライシング・グループの上級プライサー(価格設定責任者)のジョン・ホーガンはかつてゼネラル・モーターズ(GM)に勤務していた。「GMでは長年、価格の決定は本社の財務スタッフが行い、マーケティング部門は決定した新価格を知らされるだけだった」とホーガンは語る。

この方式の問題点は、社内のどの部門にせよ、最適価格を設定するのに必要な情報すべてを単独で持っているところはないということだ、と彼は言う。したがって、ある部門が決定した価格を全社に押しつけるのではなく、企業はさまざまな観点が考慮されるように価格決定の協議会を設立すべきなのだ。