実は上場企業でも世界企業クラスの役員ともなると、リタイアするまでに築き上げられる資産は半端な額ではない。「あるメーカーでは常務と専務では生涯賃金が大きく差がつきます。またその後も、子会社や関連会社にトップとして移籍し、そこでも大きな蓄財が可能になります」と百武社長は語る。

いま、そうしたビジネス界出身の富裕層の頭痛の種となっているのが、株価の低迷。彼らの多くは自社の株式がストックオプションの形で増えており、全体の資産に占める株式の比率が大きくなっている。しかし、10年前に時価評価が10億円だったものが、株価の下落で3億円程度まで下がっているケースも決して珍しくはない。そこで百武社長のファミリーオフィスが頼れる強い味方となる。

「資産を正しく守っていくことで、顧客の生活がより豊かになれば」と百武社長が独自に用意した運用先の一つが、経済成長が著しいカンボジアやベトナムなどの投資先企業を選定するターゲットファンド。金利選好の顧客の要望に応えるべく、大手会計事務所の力を借り、カンボジアの大手銀行と契約をかわし、現地の米ドル預金での運用ができるプラットホームもつくり上げた。

いま、日本の財政破綻等に危機感を募らせる一部の富裕層の間では、海外へ資金を移動させる“資産フライト”の動きが強まっているといわれる。しかし、事前の情報収集・調査、そして正しい税務に関する理解が必要不可欠であり、百武社長はこうした動きには逆に注意を喚起している。

「政府は12年度の税制改正の大綱のなかに、海外資産に関する報告を義務付ける課税強化の措置を盛り込みました。法案が通れば、13年以降、毎年12月31日時点で5000万円超の海外資産を持っている人は報告義務が発生します。不提出や虚偽申告すると1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。単に危機感を煽って海外に資金シフトを促すようなアドバイスは間違い。顧客に正しい金融情報や知識を伝えていくのがファミリーオフィスの最も重要な役割なのです」と百武社長はいう。