政治家は自分の敗北を認めるべきではない

このような大人の態度に出れば、自民党はダブルでポイントを獲得できる。まず、消費税論議に乗ることは相手を助けることになるだろうが、そのときに得点を稼ぎ出すのは野田首相ではなく、谷垣総裁だ。「助かりました。ありがとうございます」と野田首相が頭を下げるシーンを見れば、「谷垣総裁のほうが大人だな」と多くの国民が思うはずだ。

もう一つは、「消費税増税だけでは足りない。もっと経費削減を命がけでやらなければダメだ」と、もっと声高に訴えることが必要だ。そして民主党政権が応えなければ、「無責任だ!」という追い込みをかけることができる。

そうすれば谷垣自民党が消費税増税だけではなく、(官僚出身でありながら)削ることにも非常に熱心だという評判を呼んで、「次はあの人に任せればいい」という流れが国民の中から出てくる可能性がある。

谷垣総裁は、相手を言葉で追い詰めて破綻させるのではなく、「どっちみち自分たちが政権を担うことになるから、我々としてはこうする」という余裕を示し、「早くこういう人にやってもらいたい」という世論を喚起する。これが今、自民党に求められている戦略だ。

首相の座に一番近いとされた前原氏も、「八ッ場ダムの敗北発言」で馬脚を現した。(YOMIURI/AFLO=写真)

八ッ場ダム問題については、それを報じるマスコミも混乱している。前原政調会長の敗北宣言で一件落着、安心して事業が再開できると思っている手合いが多いだろうが、本来正しい主張をしていたのは、前原政調会長だ。

今どきの政治家は言葉の使い方が拙劣きわまりないのはいうまでもないが、もう一人、馬脚を現した政治家がいる。民主党の前原誠司政調会長である。「言うだけ番長」と揶揄され続けてきた御仁だが、政府が八ッ場ダムの建設工事再開を決定したことについて、「党は反対したが、政府に委ねるというのは言い訳でしかない。これは私の敗北だ」とテレビの報道番組で発言した。

前原政調会長は八ッ場ダム事業継続の動きに対して、7億円の本体工事費用を12年度予算に計上することに強く反対していた。しかしながら、野田首相と輿石東幹事長に見殺しにされ、最終的には「政府に委ねる」と容認してしまった。政調会長としての役割をまったく果たせなかったわけだから、「全面敗北」に違いない。しかし政治家という稼業は自分の敗北を腐っても認めるべきではない。前原氏を選んだ京都の有権者、政調会長に選んだ党の同志に対して申し訳が立たないからだ。