小型スポーツカーで欧州を攻略せよ

友部了夫●ホンダ 四輪R&DセンターLPL主任研究員。1953年8月、茨城県常北町(現城里町)生まれ。県立水戸工業高校機械科卒。72年本田技研研究所に入社。エンジン畑を歩む。社長の伊東孝紳とは同年。

「あ、トモちゃん。今度さ、新しいスモール・スポーツやってくれない?」

栃木県宇都宮市郊外の本田技術研究所。通路を通りかかった上司が、主任研究員の友部了夫に軽い調子で声をかけた。

小型のスポーツカーを開発するので責任者をつとめてくれ、というのである。口調は軽いが、告げている中身は重大だった。

友部は大型ミニバン・エリシオンの開発責任者として「まあ、いいクルマに仕上げたところ」一息つく間もなく、大仕事を任されたのだ。だが、疲労は感じなかった。

仕事の報酬は仕事。そういうホンダの不文律があるからだが、さらに今回は、ホンダが久しぶりに手がけるスポーツカーだという喜びも加わった。

「運転するのが大好きで、長い人生、クルマとともに生きてきちゃった」という友部にしても、スポーツカーの開発は夢だった。その晩は感激して眠れなかったという。

ホンダは北米をはじめ海外市場に強みを持つが、主要市場で唯一、低シェアに甘んじているのが欧州だ。逆にいえば伸びしろがあるということで、そこへ食い込むにはまず若者層を魅了し、生涯にわたってホンダ車を乗り継いでくれる仕掛けをつくらなければならない。そのための戦略車として、若者が飛びつくような小型スポーツカーを売り出したい。

これが「新しいスモール・スポーツ」のおおよその背景だった。6年前の構想には「ハイブリッド」の文字は出てこない。