トヨタの車をSNSにつなぐ

――トヨタ自動車に、次世代環境車ユーザー向けのSNSサービス導入を提案されました。円高や若者の車離れなどかつてない苦境に立つ日本の自動車業界ですが、どのように手助けをされたいとお考えですか。

11年初頭、私のハワイの別荘にトヨタの豊田章男社長を招いたとき、彼は「SNSの中に、車も参加する」というアイデアに共感してくれました。当社の企業向けSNS「Chatter」をベースにした「トヨタフレンド」というシステムを提案したのです。

「車をSNSにつなぐ」という構想が実現すれば、さまざまなことができるようになります。一例ですが、スマートフォンやタブレット端末に送られる「つぶやき」を見ることで、顧客はハイブリッド車と電気自動車の電池残量が少ないことに気づいたり、販売店の車体点検サービスを確認することができるようになるでしょう。ITを駆使し、顧客は販売店の店員だけでなく車本体とも疑似会話を交わせるのです。

豊田社長は「『走る』『曲がる』『止まる』という車の基本性能に『つながる』を加える。もっといい商品をつくり、若者の車離れを食い止めたい」とおっしゃっています。まさにまったく新しい車の売り方が生まれる契機になるでしょう。

――日本より、中国やインドへの投資を加速する企業が増えているようです。

私は、日本企業に強い関心を持っています。日本法人を設立したのはカリフォルニアで起業した翌年のことです。そして、11年12月に、当社がNTTコミュニケーションズとの協業で開設した東京データセンターが稼働を開始しました。日本とアジアの市場で急速に広がりつつあるソーシャルエンタープライズによる企業の変革をサポートします。ここがいわばアジアのクラウド拠点となるのです。

当社は常に成長性があり、革新的な「よいアイデア」を持つ会社を求めています。10年来、顧客情報管理(CRM)ソフト開発の「シナジーマーケティング」やインターネットを介したマーケティング支援の「ネットイヤーグループ」など、いくつかの日本のITベンチャーに出資しています。

今後、さらに日本への投資を加速していくつもりです。インドや中国は確かに成長著しいですが、まだまだ日本に比べると難しいマーケットであるといえるでしょう。例えば、マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOは、「中国に巨額の投資をしたが、なかなか売り上げを大きく伸ばすことができない」と語っています。

日本には素晴らしい起業家がいて、有望なベンチャー企業がたくさんありますが、多くが過小評価されているように思います。例えば、ソフトバンク。社長である孫正義さんの優れた経営手腕は広く知られている通りです。「楽天」の三木谷浩史さんにも注目しています。海外経験も豊富で非常にグローバルな方で感銘を受けました。

日本に「元気がない」のではなく、「あれはできない」「これもできない」と、あきらめる癖がついているのではないでしょうか。ネガティブな考えは脇に置いてください。私は日本支社を従業員1000人、売り上げ1000億円規模の企業にしたいと思っています。期限は決めていませんが、日本の力を信じていますから、遠くない未来に実現すると思いますよ。

※すべて雑誌掲載当時

(金澤匠=構成 澁谷高晴=撮影)