【ここがクリエイティブ
  @神戸大学大学院経営学研究科教授 石井淳蔵】

新しい事業で成功する場合は、3つの条件があります。まずは他より安くつくれるか、という価格競争力。次に、範囲の経済性。それをやることによって、新たなコアコンピタンスを創出するための資源や情報が得られるかどうか、ということです。もう1つは、ブランド認知・連想力の向上です。つまり、その事業を通じて、顧客の企業認知度が上がるかどうか。このうち、どれか一つはないと勝負には勝てない、と普通は考えます。

しかし、日本SGIのロボット事業は、そんなことはおかまいなしに始めていますね。同社のような事業拡大のやり方は、リクルートやグーグルのような企業にも見られます。

これらの企業に共通しているのは、「言い出した人に好きにやらせる」ということ。組織が大きくなるほど計画と制御を分ける必要性が高くなりますが、それをやると事業の「勢い」が殺されてしまう。やりたい人たちがところどころで小さいグループをつくり、それぞれが「渦」を起こすようなモデルだと、勢いが保たれたまま、やがてその小さな渦が互いに連動し、大きな渦になっていきます。日本SGIやリクルートのような会社、あるいはシリコンバレーなどの地域では、そうしたメカニズムがうまく働いているから、活力があるのでしょう。

ただ、好きなようにやらせるだけではビジネスにはなりません。「○年で黒字に」ではなく「すぐに利益を出せ」という高いハードルを設けることで、当事者は、自分が「好きで」つくったものに「売れる理由」をあとからかぶせていく。この「売れる理由探し」こそマーケティングの神髄なのです。

(清水博孝=撮影)