たとえば、東京23区内で敷地200平方メートル(評価額8000万円)の自宅で一人暮らししていた母親が亡くなったAさんのケース。相続人はAさんと妹の2人で、Aさんは勤務先近くでマンションを購入して住み、妹は夫の持ち家に住んでいる。母の財産は自宅のほかに預貯金が1000万円だった。

相続税には基礎控除(非課税枠)があり、現在は(5000万円+1000万円×相続人数)となっている。このケースでは相続人が2人なので、基礎控除は7000万円になる。

特例改正前に相続が起きれば、自宅の敷地には50%減額が適用されて評価額を4000万円に下げられた。預貯金と合わせて相続財産は5000万円になり、基礎控除を下回るので相続税はかからなかった。だが、今は特例が適用されず、敷地の評価は8000万円のままになる。相続財産は計9000万円になり、基礎控除を上回る2000万円に相続税がかかってしまう。税額を計算すると、200万円だ。

さらに、今後の相続税改正では、基礎控除の引き下げが見込まれている。そうなると、相続税額はもっと高くなってしまうはずだ。

このケースでは、もしAさんか妹のどちらかが二世帯住宅を建てるなどで母親と同居していれば、敷地には80%減額が適用される。とはいえ、同居するか否かは暮らし方の問題なので、相続税だけで決断はできないだろう。

また、相続人の中に賃貸暮らしの人(自己または配偶者の持つ家に住んでいない人)がいれば、特例改正前なら敷地全体に80%減額が適用された。だが、改正後は相続人ごとに適用条件が判定される。つまり、このケースでもしAさんが賃貸暮らしだった場合、相続した自宅を分ければ、Aさんが相続する部分だけに80%減額が適用され、夫の持ち家に住む妹が相続する部分は減額なし、ということになる。妹も賃貸暮らしなら、どちらが相続する部分にも80%減額が適用される。

母親に介護が必要になったため老人ホームに入り、自宅を賃貸にする例もある。こうすると、相続が起きたときには自宅は不動産貸付とみなされるので、50%減額が適用される。

「おもな財産は自宅ぐらい」という人は多いはずだ。両親の世話をどうするかを含めて、家族が元気なうちに今後の方針を話し合っておきたい。

※すべて雑誌掲載当時

(撮影=坂本道浩 構成=有山典子)