コンセプトを明確にし 従業員たちに戦略の浸透を

──かねてブランド戦略には、いくつかの枠組みがあると提唱なさっています。どのようなことが必要でしょうか。

海上 まず、ブランド戦略は企業規模にかかわらず有効です。また、概して、「ブランドが必要なのはBtoC(対消費者)ビジネスの場合だけ」と思いがちですが、BtoB(対企業)ビジネスでもブランドは力を発揮します。ここで活きるのは、中小企業ならではの顧客対応能力やカスタマイズ能力です。特定顧客独特の要求や期待に応えるとともに、その顧客ならではの潜在的な課題やニーズまで見出し、提案、解決することを目指します。こうして信頼と実績を積み重ねていくと、その評価を聞きつけて、新規顧客や別業界からも引き合いが来始めます。すなわち、企業ブランドが醸成されていくのです。

BtoCの場合で、不特定多数のターゲットに対しマスメディアを介した広告宣伝を要するものは、当然、資本力がないと難しいでしょう。ただし、今日の情報化社会・ネット社会では、マーケットへのアクセスポイントは多様かつ豊富にあります。例えば、店頭でもウェブ上でも口コミによるブランド形成の事例がみられます。本当によいモノやサービスは、費用をかけなくても人づてに情報が伝播していきますが、口コミを促すためのポイントもあります。伝えてくれるのが素人のお客さんなので、とにかく商品の魅力を説明しやすく、分かりやすく、伝えやすいように、あらかじめ想定し設計しておくことがポイントです。

いったんブランド構築に成功した経営者には、ブランドイメージにそぐわない事業や将来の計画は中止するという厳しい決断を求められることもあります。例えば、出店を拡大し規模が大きくなりすぎることで、末端までブランド戦略の徹底が難しくなるようなら見送る。上場して資金が得られるとしても、投資家の理解が得られない場合にブランドの維持が危ぶまれるならあきらめる。ブランドあってこその経営という思想が必要になるかもしれません。

そして、きわめて重要なことは、従業員に対するブランド戦略の徹底です。戦略をリードするのは経営者であっても、現場で戦略を実行に移すのは従業員たちです。ブランドが衰えを知らない企業というのは、ブランドのコンセプトが明確で、経営者と従業員のベクトルが一致しています。経営者としては、従業員たちと近い距離を保ち、対話を励行し、ときには現場に立つ必要もあります。その意味では、中小企業が持つ小さめで風通しのよい組織は、強みだと言えます。

企業がブランドづくりに成功し、より発展していくことは、新たな地域ブランドの誕生にもつながる。逆に、長い歴史に育まれた地域ブランドが衰退しかけても、企業による新しい発想がそれをよみがえらせることもある。

地域ブランドが輝きを増すことは、すなわち内発的な地域の活性化を意味する。同時に地域ブランドの確立はヒト・モノ・カネの流入を招き、外発的発展への起爆剤ともなり得るだろう。そうして元気な地域が一つ一つ増えていく過程は、日本全体が閉塞感から抜け出す突破口を広げていく道のりでもあるはずだ。