危機の主因はコア諸国と周辺国の競争力の乖離にあり

また同時に、ヒトの移動だけではなく、おカネの移動も自由で活発化している。その典型的な例が、ギリシャ財政危機の他国への波及である。ギリシャ国債のデフォルトが懸念されるなか、ギリシャ国債を多く保有するフランスやドイツの金融機関のバランスシートが悪化し始めている。南欧のギリシャで起きた財政危機が北欧の国々にも影響を及ぼしている。

フランスやドイツの金融機関が中心となってギリシャなどの南欧の国債を保有していることから、ここ北欧への直接的な影響は大きくないが、欧州財政危機が50%の債務削減を民間金融機関に強いることによって、金融面への影響を通じて欧州の景気後退が確実視されるなか、そういった欧州経済の景気後退によって輸出が縮小するという間接的な影響は北欧にも及んでいる。

1月13日にスタンダード&プアーズ(S&P)がフランスをはじめとするEU9カ国(フランス、オーストリア、スロベニア、スペイン、スロバキア、マルタ、イタリア、キプロス、ポルトガル)の国債の格下げを発表した(表を参照)。その詳細は、スタンダード&プアーズのウェブサイトのトップページに発表された。

この格下げの特徴的なことは、ギリシャなどの欧州諸国の財政危機にドイツとともに中心的に対応してきたフランスの国債がAAA(トリプルA)からAA+へ1段階引き下げられたことである。また、イタリア、スペイン、ポルトガルなどの国債の格付けが一気に2段階も引き下げられたことも衝撃的であった。さらに、フランス国債も含めて、2012~13年に格付けが3分の1の確率でさらに引き下げられる可能性も示唆している。

今回の国債格付けの引き下げに至った評価として、ここ数週間の欧州の政策当局によって取られてきたイニシアチブが、ユーロ圏が現在、直面しているシステミックなストレスに対して十分に対応できるものではないとS&Pは指摘している。

そして、このシステミックなストレスとして、以下の5つを挙げている。(1)信用条件の逼迫化、(2)ユーロ圏国債発行者のリスクプレミアムの上昇、(3)政府と家計が同時に問題解決に当たらなければならないこと、(4)経済成長見通しが弱くなること、(5)問題解決への適正なアプローチに関するヨーロッパの政策当局者間の長引く議論。そして11年12月9日のEU首脳会議の結果により、S&Pは、ユーロ圏の金融問題を完全に解決するに十分な規模と範囲の突破口となりうる合意に至っていないと判断している。

さらに、EU首脳会議の合意が、現在の金融の混乱が主としてユーロ圏の周辺国(ギリシャなどの南欧諸国)における財政の脆弱性のみに起因するということを前提にしていることを問題視している。ユーロ圏が直面している金融問題は、対外的不均衡の増大と、ユーロ圏のコア諸国といわゆる「周辺国」との間の競争力の乖離の結果以外の何ものでもないことを指摘している。財政緊縮のみに頼った改革プロセスは、景気悪化から税収の縮小に至る自滅的プロセスになるリスクをはらんでいることが懸念されているのだ。