鎌倉幕府を築いた源頼朝には、北条政子という妻とは別に、亀の前という愛妾がいた。歴史学者の濱田浩一郎さんは「NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、頼朝を寝取った『性悪女』として描かれているが、これは史実とは異なる。ドラマとして不倫相手を性格の悪い人物とするしかなかったのだろう」という――。

強烈なインパクトを残した「亀の前」とはどんな女性だったのか

NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の登場人物として、最近、新キャラクターが登場してきました。演技派女優として名高い江口のりこさんが演じる、「亀」です。

この亀とは、どのような女性だったのか。鎌倉時代の文献をひもときながら、迫ってみたいと思います。なおドラマと異なり、史料には「亀の前」と記されているので、本稿もそれにならいます。

写真=CC-PD-Mark/Wikimedia Commons
伝源頼朝像(写真=CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

ドラマにおいて、石橋山の戦い(1180年8月)に敗れて、安房国(今の千葉県南部)に避難している時に、源頼朝と漁師の妻・亀の前は出会ったように描かれていました。

人妻でありながら、頼朝と一夜を過ごした亀の前。彼女の夫の漁師とその仲間たちが「亀はどこだ!」と殴り込んでくるのですが、頼朝は事前にそれを知り、隠れる。

同時に、平家方の豪族・長狭常伴ながさつねともも、頼朝の宿泊所を襲撃しようとしていたのですが、漁師の集団とかちあってしまう。乱闘の最中に、頼朝は難を逃れることができた……との展開でした。

史実にはない創作されたシーン

家臣(山本耕史さん演じる三浦義村)が頼朝に「敵の大将(つまり長狭氏)も討ち取ってきます」と告げた時、亀の前が「自分の夫もついでに殺してきて」と言い放ったことは印象的でした。私は「性格悪っ」と思ったものです。

長狭常伴が頼朝を襲撃しようとしたこと、三浦氏が長狭氏を撃退したことは事実ですが、亀の前とのなれそめなどは全て創作です。

まず、二人は、頼朝が安房国に避難している時に出会ってはいません。

吾妻鏡』(鎌倉時代後期に編纂された歴史書)によると、頼朝が伊豆に流罪になっていた頃からの知り合いだったようです。

余談ですが、頼朝は流人時代に、伊東祐親の娘(八重姫)、北条政子、そして亀の前と、数々の女性と恋愛関係にあったのです。これだけでも、流罪にあっていた頼朝が、かなり自由な立場にあったことが分かります。