大阪都構想の流れを受けて、道州制の研究会をもう一度立ち上げようという動きが与野党からも出てきている。従来の道州制論議というのはもっぱら行政コストの削減が目的で「市町村合併の次は都道府県合併」という延長線上の発想でしかなかった。

あるいは石原慎太郎東京都知事が2000年に外形標準課税を導入したときだ。資本金が1億円を超える法人が対象になる外形課税は道州単位のほうがスケールメリットは大きい、などという“不純な動機”で語られてきた。だが私が提唱する道州制とは、目線の低い話ではない。産業基盤をつくり、産業政策を充実させ、世界からヒト、モノ、カネ、情報を呼び込み、税金に依らずに産業発展するための戦略的事業単位、それが目指すべき「道州」だ。

橋下市長は私の本を克明に読んでいるから、道州制の何たるかをわかっている。巷では大阪都構想だけで大変な騒ぎなのに、これを統治機構の変革を要する本物の道州制につなげていく道程の険しさを痛感しているようだが、私は心配していない。中国の一国二制度を見ると、「改革開放区に指定してくれ」という動きが漸次広がり、中国全土に経済特区が波及し、事実上どこへ行っても市場経済の一国一制度になった。大阪都がうまくいけば、先行事例になり、「自分たちにもやらせろ」という地域が日本にも出てくる。

たとえば、大村秀章愛知県知事と河村たかし名古屋市長が提唱する「中京都」、泉田裕彦新潟県知事と篠田昭新潟市長の「新潟州」など、独自の広域行政構想を打ち出した自治体は有力な候補だ。11年11月、九州の産学連携組織である「九州経済フォーラム」で、JR九州の石原進会長が「九州府」の府長に就任したという想定で集まった1500人もの聴衆を前に「府長受託演説」を行い、九州府のビジョンを示した。道州のメッカとなりえる九州からも早々と狼煙が上がっているのだ。

橋本市長は与党民主党をうまく引きずり込むべきだ。私は民主党の幹部に対しても、橋下市長の足を引っ張るのではなく、大阪ダブル選挙の勝利を祝して橋下市長に「乗っかるべし」と提言している。放っておけば自民党が乗っかり政権交代が起きる。しかし、自民党では何も変わらないことはこの60年間で証明済みである。みんなの党も道州制に乗っかる提案を出している。

大阪都構想をなし崩しにしようと、役人が足を引っ張るのは目に見えているので、与党民主党としてはこれを何としても食い止めなければいけない。「政治主導」を発揮すべきときなのだ。

さいわい橋下氏が次回の総選挙の争点は消費税などではなく道州制、国家の統治機構の転換だ、と発言したことで、この問題が一気に中央舞台に躍り出てきた。既存政党や官僚がもたもたしていると大阪維新が一気に全国版になる可能性さえでてきた。