ICRP以外にもある放射線基準

ICRPは、純粋に科学的な組織であると受け止められていることが多いようですが、実はそうではありません。ICRPの勧告は、科学的な根拠に加え、社会情勢を鑑みて決定されます。そのICRPに対して、科学的な根拠を提示している主な情報源は、国連の下部機関であるUNSCEAR(United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation、原子放射線の影響に関する国連科学委員会)です。

UNSCEARは、ICRPと比べ、純粋に科学的な機関で、学術経験者で構成されています。このUNSCEARは、1958年に国連総会の付託を受けて設立されており、数年に一度、その時点までに判明している放射線の影響に関する知見をまとめた科学レポートを発行しています。最新のレポートは2008年で、その前は2000年に出されています。ICRPはUNSCEARのレポートなどを踏まえ、国による違いやその時の特別な状況(原発事故後の復興はその典型例です)などを勘案した現実的な放射線防護に関する考えを示すのです。

また、IAEA(International Atomic Energy Agency、国際原子力機関)はICRPの勧告よりもさらに具体的な手順(基本安全標準、Basic Safety Standardと呼ばれます)を打ち出します。

これらとは別に、BEIR (Committee on the Biological Effects of Ionizing Radiation、電離放射線の生物影響に関する委員会)があります。BEIRは、米国科学アカデミー(National Academy of Sciences)が1956年に設立した組織を母体として成立しており、放射線防護基準に関する報告を出しています。特に低線量電離放射線被ばくによる健康影響について、1990年にはBEIR-Vが、2005年にはその改定版に位置づけられるBEIR-VIIが発行されています。

また、上記の諸組織より危険側に立った考えを呈することで原発事故後に脚光を浴びたECRR(European Committee on Radiation Risk、欧州放射線リスク委員会)は、欧州緑の党(European Green Party)が1997年に設立した団体です。この団体の主張が十分な科学性を持つかどうかについては議論が分かれるところであり、少なくとも後述のように、日本の国内法規や基準の決定には影響を及ぼしていないことは確かです。