小阪氏は、プロセスを消費する傾向も強まっていると指摘する。紹介するのは、あるコーヒー豆専門店の事例だ。

小阪裕司●オラクルひと・しくみ研究所代表。大手流通業、広告代理店を経て1992年同研究所設立。2000年から主宰する実践企業の会には1500社が集う。『「買いたい!」のスイッチを押す方法』など著書多数。

この店の店主は、2人目の子どもが生まれる前に顧客にDMを送ったという。内容は「今月第二子が生まれるので気合いを入れるために、オリジナルのコーヒー豆を200個売ります。自分を格好良い親父にしてやってください」と似顔絵を添えた宣言文。

するとお客さんが続々と来店し、見事計画を達成。子どもが無事生まれた後は、「みなさんのおかげで達成することができました」と購入客に礼状を送り、店内に子どもの写真を掲示すると、それを見ようとまた客が足を運んだ。

「ここで客が買っているのは確かにコーヒー豆なんですが、プロセスを買っているとも言えます。この店では、ほかにも、『福山雅治に抱きしめられているようなコーヒー豆です』というPOPを書いて高い反響を得ましたが、これもまたプロセス。POPに惹かれ、コーヒー豆を試してみたいという楽しみが生まれ、家に持ち帰るとそこでも会話が広がる。そこにはコーヒー豆を超えた価値が生まれています。

小売業はこうした現在の消費者の気持ちに合った買わせ方がうまい。その点、メーカーは大変ですが、直売をしていない限り、必ず販売現場があるはずですから、売る現場と手を組み、サプライチェーン全体の価値創造をしていくことが必要でしょう」(小阪氏)

※すべて雑誌掲載当時

(永井 浩=撮影)