中国の工場で生産した場合、納期は2週間かかる。つまり、代理店が客の注文を受けてから納品するまでに2週間を要するわけだが、せっかちな日本の客は2週間も待ってくれない。結果、「当月にほしい」という注文を受注できるのは月半ばまでに限られてしまう。半月の機会損失は、代理店にとってあまりにも痛い。

そこで代理店は、仕方なく在庫を持つことになる。しかも、製品によって売れたり売れなかったりがあるから、どうしても在庫を厚くする必要が出てくる。納期2週間の中国製の場合、約1カ月分の在庫を持たなければ商売として成り立たないという。

ここで、代理店にはふたつのコストが降りかかることになる。ひとつが倉庫費用であることは言うまでもないことだが……。

「パソコンのテクノロジーは3カ月、半年といった単位でどんどん新しくなっていくので、同じ機能のものがすぐに安い値段で出てきます。同時に、パソコンの単価は垂直的に下がり続けています。10年前に20万円だったノートパソコンを、いまでは5万円で売っていますよね。

要するにパソコンの世界では、仕入れコストが毎月数%ずつ下がっていくのです。だから、より新しい商品を仕入れるほど、代理店は仕入れコストを低く抑えることができる」

言い換えれば、在庫を持つリスク、売れ残りのリスクが、他の商品に比べて格段に大きいということだ。製品の陳腐化が異様に早いマーケットでは、納期の長さがコストに直結してしまう。

では、日本の工場で生産するとどうなるのか。2週間かかっていた納期を5営業日に短縮することができるため、当月の注文を25日まで受注することができる。代理店の売り上げアップ、リスクの低減に大きく貢献できる。

「生産のボリュームが1万台、2万台というレベルでは、人件費の高い日本でつくると圧倒的に高くついてしまう。しかし、これが5万、10万と伸びていったときにどうなるかと考えたら、日本でつくるほうが、結果的にコストが安くなることが読めたのです」

もちろん、ここで岡が言っているコストは自社だけのコストではない。代理店のコストまで含めた「総がかりのコスト」だ。総がかりのコストが小さくなれば、代理店はリスクを抱えなくて済むようになり、コンパックは代理店にとって「調達しやすいメーカー」となる。当然、取引が増える。

「こうして日本で生産することのプラスとマイナスを評価してみたとき、何のマイナスもなかった。そして、納期を短縮できることのメリットが非常に大きいことがわかったのです」

岡の読みは正しかった。国外生産品しかなかった当時、2~3%しかなかったデスクトップのシェアは、国内生産に切り替えてから一時は20%のトップシェアを取るほどまでに成長したのである。デスクトップで実証された「総がかりコストの削減」効果が、ノートパソコンでも起きないはずがない。