コシノヒロコ

大阪・岸和田生まれ。文化服装学院卒後、自身のブランドを立ち上げる。64年心斎橋にオートクチュール・アトリエを開設。78年ローマの「アルタ・モーダ」に日本人として初めて参加。82年パリ・プレタポルテコレクションに参加。97年毎日ファッション大賞受賞。2001年大阪芸術賞受賞。09年、15年ぶりにパリコレに参加。11年夏、パリで絵画と洋服の展覧会を開催、話題を呼ぶ。体操日本代表などユニホームのデザインも多数。近著に『だんじり母ちゃんとあかんたれヒロコ』。


 

大阪・岸和田のコシノ洋装店を舞台にしたNHKの朝の連続ドラマ「カーネーション」が10月から始まっています。関西だけでなく関東でも高視聴率のようで、とても嬉しく思っています。

うちのお母ちゃんが呉服屋に生まれて、いろんな苦労をしながら、洋装店をきりもりしていく話です。ちょうど着物の時代から洋服の時代に変わるときですね。その後は、私たち三姉妹のデザインの時代に入っていく。糸偏の歴史をうちの一家が語っている、そんな物語なんです。

お母ちゃんは、2006年に92歳で亡くなりました。私たち三姉妹は、親は背中しか見せない、親には頼れないもんや、という躾け方をされてきた。だから、皆しっかり、自分の人生は自分で切り開いていかないといけない。私たちが世界へと目を向け、出ていったのもそんな育てられ方をしたからだと思うんです。

母を含めうちは代々酒飲みで、それこそ子どものときから塩辛やカラスミ、カニ味噌という酒の肴で育った。生まれ育った岸和田というところは、美味しい魚をいつでも食べられる土地だったんですね。

今はさすがにお酒は毎晩というのは避けていますが、この前、ケンゾーエステイトさんのワインを飲み出したらとまらず、造られている全種類を飲んでしまった。でも悪酔いはしませんでした。やっぱり、ワインはいいものを飲まないとダメですね。ケンゾーさんのは、美味しい料理をよりよく味わうためのワイン。造り手の思想と情熱が表れています。

「タテル ヨシノ」の吉野建オーナーシェフも昔からの友だちです。彼のパリの店「ステラ マリス」でもそうだけど、ジビエが抜群で、フランス人も絶賛しています。彼の料理は、味わいと視覚的な美しさが一体になっているところが素晴らしいんです。

私は、基本的に人が喜ぶ仕事をやりたいと思ってやってきました。お金儲けだけではなく、世の中に何が必要なのか、人間の精神のルーツは何なのかと問うことが結果的にいいビジネス、クリエーションにつながっていくと思っています。

と同時に、すごくこだわったモードや感性と、実際にそれを消費者に提供するのとは別のことです。マーケッター的才能をプラスアルファしながら、作品を一般的なものに落とし込む必要があるし、それでいて、イメージは決して壊してはならない。私は、うちのブランドが大成功している所以だと思っています。

やっぱり私も、うちのお母ちゃんの子供なので、デザイナーであるとともに、ある意味、とても商売人。ビジネスがわかるっていうか。私、あのサントリーの佐治さんに誘われて、経済同友会に入った初めての女性なんですよ。意外でしょ(笑)。